今積りゆく雪の結晶は同じタイプ?

 雪の結晶の形と言うと、千差万別で2つと同じものはない、とよく言われます。もちろん、これはその通りなのですが、その意味合いには少し注意が必要です。と言うのは、千差万別であるということには、一つの条件があります。すなわち、時間や場所をいろいろと変えて、多くの雪の結晶を観察したときに、その形はさまざまであって、2つと同じものはないということです。頂いたご質問は、“雪の結晶の形は、千差万別と言っているけれども、どんな条件でも言えるのでしょうか?”とも言い換えることができると思います。本当は、この条件のことを説明した上で、この言葉を使わないといけないのですが、ついつい疎かになっていて、皆さんに誤解を招く結果になっていると私も反省しているところです。

 では、もう少し具体的にご説明しましょう。すなわち、ここで言う千差万別は、時間や場所を変えて雪の結晶を多数観察したときに、その形はさまざまなタイプあると言うことで、ある瞬間にある場所で降っている雪の結晶のタイプがさまざまなものを含んでいると言うことはではありません。実際、雪の結晶の観察をしてみると、ある瞬間にある場所では、ほとんど同じタイプの結晶が降っているのが普通です。例えば、樹枝状に枝が発展したタイプの結晶が降っているときには、細長い針状のタイプの結晶などが混じっていることはありえません。

 その理由は、ある瞬間にある場所で降っている雪の結晶は、ほぼすべてが同じような気象条件(すなわち、結晶の形を決める条件)で生成されたものであると考えられるからです。個々の雪の結晶の形は、上空で誕生した微細な氷の結晶の粒が、地上に落下するまでに、その落下経路に沿って気象条件がどのように変化したかを反映して決まります。結晶ごとに異なる経路をたどっているので、結晶の形はそれぞれ異なることになります。しかしながら、上空のほぼ同じところで誕生した氷の粒は、気流の流れに沿って落下してくるので、雪の結晶としてほぼ同じ場所に降り落ちるはずです。すなわち、地上である瞬間に同じ場所で降っている雪の結晶は、似通った気象条件の変化を受けて生成されたと考えるのが妥当です。このため、同じタイプの結晶ばかりが降り落ちると言うことになります。

 中谷宇吉郎は、「雪の結晶は天から送られた手紙である」と言う言葉を残しました。これは、地上で雪の結晶の形を観察すれば上空の気象条件を推定することができると言うことを意味していますが、まさにある瞬間にある場所に降り落ちる雪の結晶は、ほぼ同じタイプであるということが条件になっているのです。

  (回答掲載日:2024年8月23日)