皆さまから寄せられた雪や氷の質問・疑問に、古川館長がお答えしました!
古川 義純(ふるかわ よしのり)先生
中谷宇吉郎雪の科学館 館長 / 北海道大学 名誉教授
日本結晶成長学会の会長や、北海道大学の低温科学研究所の所長などを歴任し、国際宇宙ステーション「きぼう」で氷の成長の宇宙実験を行ったことでも知られています。
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地球温暖化
年々海水温が上がり確実に地球温暖化を感じていますがそれでもなぜ北陸では主に二月にドカ雪が降るのでしょうか?(テルちゃんさん / 石川県・73歳)
地球温暖化が話題になり始めた最初の頃は、気温(すなわち大気の温度)の上昇だけが強調されることが多かったと思います。しかし、近年では、気温上昇だけではなく、海水温の上昇とその影響が報道などでも盛んに取り上げられるようになっています。海水は大気に比べて、温めるのに必要な熱量が桁違いに大きくなります。このため、地球温暖化の影響は、初めは温まりやすい大気の方に影響が現れ、遅れて海水も温まってきたのです。海水の温度も顕著に上昇を始めたということは、地球温暖化のレベルが一段とあがり、いよいよ危機的な状況に近づいてきたともいえます。
さて、地球温暖化によって気温が上昇すると、北国の降雪量も少なくなると思われがちです。しかし、これは必ずしもそう単純なことではありません。実際、大気の温度が上昇するとその大気中に含まれる水分の量が増加します。さらには、海水温度の上昇は、海水からの水分の蒸発をより激しくする効果を持ちます。このため、地球温暖化が進行すると、全体としては降水量がかえって増加するという傾向にあります。このごろ、各地で大雨による被害が頻繁に起きるようになっていますが、これは降水量が増加していることの現れであると思われます。しかしその一方で、雨が極端に少なく渇水の場所も同時に現れたりします。すなわち、全体としては降水量が増えても、一様に増加するのではなく、場所ごと、または時間ごとに、その降り方が大きく変動していると言えます。気温についても同様に、全体が一様に気温が上昇するのではなく、極端に高温の場所と逆に低温の場所が現れたりします。こうして、かつては何10年あるいは100年に一度しか起きないと言われていたような極端な気象現象が、毎年のようにどこかで発生するということも起きます。気象や気候の変動幅が、場所や時間に対して極端に大きくなるというのが最近の顕著な傾向であり、地球温暖化の影響の特徴的なところです。
これだけ地球温暖化と言われるのにそれでも北陸ではドカ雪が降るのはなぜかということは、この地域の気象の変動だけに注目しても、その理由を明確に述べることは困難です。一冬を通して見た時に雪の量は増加しているのか減少しているのか、あるいは地域ごとや時間的に雪の降り方は変化していないか、さらには地域ごとの変化のしかたが互いにどう関連しているかなどを、客観的に見ていく必要があります。また、日本全体、あるいは地球全体の環境の変化の一部として、特定の地域における気象の変動が起きているという視点を持つことも大事です。北陸のドカ雪も、このようなことを総合的に考え合わせていかないと、その原因を明らかにすることは難しいと思います。
(回答掲載日:2026年9月8日)
雪 #雪
材料の氷の形や大きさの違いで、かき氷の溶けるスピードが違うのはなぜ?
製氷皿で作った氷(小さなキューブ型)と、かき氷専用の容器(大きな円柱型)で作った氷でそれぞれかき氷を作ったら、製氷皿の氷で作ったかき氷は溶けるスピードがとても速かったです。どうしてでしょうか?同じかき氷機を使ったのに、削った氷の形も違いました。製氷機の氷は荒く不揃いな粒状で、かき氷専用の容器で作った氷は細長い形で、割とそろった大きさに削れました。(にゃこさん / 福井県・10歳)
製氷皿で作った氷とかき氷専用の容器で作った氷を、削る前によく観察してみましょう。何か違いはなかったでしょうか?たぶん、製氷皿で作った氷は、外側は無色透明であっても中心付近は白く濁っていると思います。一方、かき氷専用の容器で作った氷は、無色透明な部分が大きくて、白く濁った部分は、ほとんどないか中心付近に少し残っているだけではないかと思います。この氷が白く濁った部分というのは、容器に入れた水に溶け込んでいた空気が気泡となって現れて、そのまま氷に取り込まれて残っている部分です。小さな気泡がたくさん集まっているので、光が当たるといろいろな方向に反射されて(散乱と言います)、白く見えるのです。透明な氷を削ってかき氷にすると、白く見えるようになるのと同じです。
さて、製氷皿で作った氷のほうがこの気泡をたくさん含んでいるので、この氷を削るとザクザクとしたかき氷ができます。しかし、かき氷専用の容器で作った透明で硬い氷を削ると、ちょうどかんなで木を削ったときと同じように、紙のように薄く削れるので、ふわふわのかき氷になるのだと思います。
よりふわふわで美味しいかき氷を作るには、気泡を含まない透明な氷を使うことが大事になりますね。かき氷専用の容器は、できるだけ気泡が入らない氷が作れるように工夫されています。さらに気泡が少ない氷を作るには、水を一度沸騰させてから、十分冷まして容器に入れると良いでしょう。こうすると、もともと水に溶け込んでいた空気をかなり追い出すことができます。今度かき氷を作るときに、ぜひ試してみてください。
(回答掲載日:2026年8月27日)
氷 #かき氷#氷の不思議特定の形状の結晶のみの生成
雪の結晶の形状の違いをうむ要因がわかっているのであれば、特定の形状の結晶のみを人工的に生成することは可能でしょうか。また、特定の形状の結晶のみを集めてできた雪は特別な性質をもつのでしょうか。(やまぎさん / 石川県・38歳)
雪の結晶の形と環境条件の関係を示す図として、中谷ダイヤグラムがよく知られています。これは、結晶ができる時の気温と周囲の空気中に含まれる水蒸気の量によって、結晶の形が決まることを示しています。したがって、気温と水蒸気の量を制御すれば、それに応じた特定の形状を持つ結晶を作ることは可能です。しかしながら、結晶の形に影響を与える条件は、決して気温と水蒸気の量だけが全てではなく、他にもいろいろなものが考えられます。これまで知られているものでも、結晶の周囲の空気の流れ、結晶の落下するときの姿勢や挙動、気圧、大気に含まれる不純物、さらには結晶そのものの大きさや特性など、さまざまなものがあります。さらには、雪の結晶が最初に生成される時の条件なども、影響を与える可能性があります。したがって、気温と水蒸気の量だけを制御しても、これらの他の条件による影響を避けることはできないので、特定の形状のみを人工的に作ることは簡単ではありません。
また、雪の結晶は、何もないところに突然大きな結晶が誕生するのではありません。最初は、雲の中に目に見えないほどの小さな氷の粒(氷晶)が生成されます。その氷晶は、周囲の大気中の水蒸気を吸い込んで、だんだん大きくなります。(成長すると言います)結晶の形は、このような結晶の成長に伴って、作り上げられていくのです。すなわち、結晶の形は、時間とともに変化(時間発展)するものなのです。結晶の成長条件をどんなに一定に保っても、結晶の形は同じ変化の過程をたどるということは保証されません。このようなことも、特定の形状の雪結晶を作ることが困難である理由になります。
また、特定の形状の結晶のみを集めた雪とは、積雪になったときのことを意味していると思います。もちろん、降りたての積雪の中では雪の結晶は元の形を保っているかもしれません。しかしながら、雪の結晶は、降り積もった直後からその形はどんどん変化し、元の形を保つことはできません。これは、積雪内部の温度や水蒸気の分布などが、雪の結晶が空中に浮かんでいるときとは全く異なるからです。積雪の性質は、降り積もった直後の結晶の形状よりも、積もってからの雪粒の変化によって決まります。したがって、雪の結晶の形が積雪の性質にまで影響を与えるということは、考えにくいと思います。
(回答掲載日:2026年8月27日)
雪 #雪の結晶#雪の不思議雪だるまの雪
丸めて固めようとしてもなかなか固まらない雪だるまになりにくい雪と、どんどん集めて雪だるまにしやすい雪があるような気がします。なぜそのような違いができるのですか? (わだちさん / 愛知県・30歳)
本州の雪では雪だるまができるけれども、北海道の雪ではできないという話を聞くことがあります。これは、積雪を作っている雪粒の表面が温度によって変化することに関係しています。
雪の話に入る前に、砂粒の話をしましょう。乾いた砂粒はばらばらで、それを手でまるめようとしても絶対に無理ですね。しかし、砂粒が濡れていると話は違います。砂をまるめるとだんごになるし、時には砂の造形なども作ることができます。これは、濡れた砂では粒の表面に薄い水の膜ができているので、その膜を介して砂粒どうしがくっつくのです。ちょうど、平らなガラスを重ねたときに、ガラスが濡れているとピッタリくっついて離れないのと同じです。
一方、雪粒の場合は、氷点下であってもその表面がわずかに融けていて、非常に薄い水の膜で覆われていることが明らかになっています。すなわち、濡れた砂粒の表面と同じ状態になっているのです。この膜があるので、雪粒どうしがくっつきあい、雪玉や雪だるまを作ることができます。しかし、この水の膜は温度が低くなるほど薄くなる性質を持っています。したがって、気温が下がり雪粒の温度も下がると、雪粒どうしがくっつく力が小さくなり、乾いた砂と同じ状態になります。北海道などの気温の低いところにあるスキー場では雪粒がばらばらで、雪けむりが舞い上がるほどの乾いた雪、すなわち”パウダースノー”となります。
さて、この雪粒(すなわち氷の結晶)の表面が氷点下でも融けているという現象は、”結晶の表面融解”と呼ばれています。氷の表面にこのような現象が起きる可能性を初めて指摘したのは、天才物理学者として著名なマイケル・ファラデーで、1850年ごろのことです。冷凍庫に氷のかたまりをたくさん入れておくと、やがてかたまりとかたまりがくっついてしまったという経験は誰でもあると思います。彼は、この現象が起きるしくみを、「氷の表面は氷点下でも融けて薄い水膜で覆われているため、氷のかたまりが互いにくっつきあう」というモデルで説明したのです。
このモデルは、当時はあまりに先駆的な考え方ですぐには受け入れられず、その後しばらくは忘れさられていました。しかし、1950年ごろになると、氷の表面に関する様々な性質がこのモデルをもとにするとうまく説明できるということに、多くの研究者が気づき始め、再び注目されるようになりました。しかし、氷の表面が実際に融けていることを実験で示すのは、当時も非常に困難でした。1980年代になると、偏光解析法という最先端の光学測定法が開発され、私たちはこの方法で氷の表面の測定を行いました。すると、確かに氷点下でも薄い水の膜が存在することを示す確かな証拠が得られたのです。さらには、この水の膜は容器に入った水よりも少し軽い(すなわち、氷に近い)という性質をもつことまで明らかになり、このためこの膜は”擬似液体層”と呼ばれるようになりました。この研究がきっかけとなり、その後世界中で氷の表面の精密な研究が盛んに行われるようになったのです。さらに、2010年代になると、ついに氷の表面の擬似液体層の挙動を顕微鏡で直接観察することさえ可能になりました。この研究も北海道大学の低温科学研究所で成し遂げられたものですが、その膜の挙動を捉えた映像は世界に衝撃を与えました。
氷の表面融解という現象は、雪玉や雪だるまが作れるというだけではなく、例えば、雪の結晶の成長、スケートやスキーの滑りやすさ、雷の発生、霜柱や凍土の生成など、雪と氷の関連するさまざまな現象を引き起こす源として作用していると考えられています。また、この現象は決して氷に限ったものではなく、どのような結晶でもその融点に近い高温になると、普遍的に起きるものであることも明らかになり、結晶表面の研究の重要な課題となっています。
(回答掲載日:2026年8月25日)
アイスを顕微鏡でみると?
アイスが大好きです。温度が上がって汗をかいても 人や物は溶けないのに アイスは溶けるのはなぜか知りたいです。アイスの中には溶ける物が入っているからだと思い 虫眼鏡でみましたが みえません。お小遣いもためて顕微鏡を買ってもらいましたが 写真を撮ってもよくわかりません。もっともっともっとアイスの構造がよくみえる顕微鏡の写真ではどうみえますか?(ゆっちゃんさん / 埼玉県・7歳)
冷蔵庫のなかでつくった氷を外に出すと、とけてしまいますね。これは、氷は温度が0度以上では固いかたまりのままではいられないからです。こういうかたまりのもの(ちょっとむずかしいことばでは、”物質”といいます)がとける温度は、それぞれのかたまりごとに決まっています。氷では0度ですが、たとえばろうそくのろうなどは、もっと高くて50度以上にならないととけません。ぜったいにとけそうもない鉄などでも、1000度よりも高い温度になるととけてしまいます。
しかし、人が汗をかくのは、とけたわけではありません。暑くなると、もともと体の中にある水分が体の表面にでてきただけですね。このように、わたしたちのまわりには、とけるものととけないものがいろいろまじっているのはおもしろいですね。
さて、アイスがとけるのはどうしてかですが、アイスの中には小さな氷のつぶがたくさん含まれているからです。アイスをあたたかいところにおいておくと、この氷のつぶがとけはじめてしまいます。このため、アイスはだんだんやわらかくなり、やがてドロドロにとけてしまうのです。
アイスは、とけていなくても、口に入れるとなめらかなものやかたいものなど、いろいろありますね。これは、アイスの中にある氷のつぶの大きさにかんけいしています。つぶの大きさがものすごく小さいとなめらかになり、つぶが大きくなるとざらざらしてかたくなってきます。
アイスの中の氷のつぶは、じつはとても小さくて、虫眼鏡や顕微鏡を使ってもなかなか見ることができません。しかし、アイスの中には氷のつぶだけではなく、空気のかたまりや脂肪のかたまりなど、いろいろなものが含まれています。それらは見ることができると思いますので、チャレンジしてみてください。
また、アイスをあたたかいところにおくと、中の氷のつぶはすぐにとけはじめてしまうことも、見ることがむずかしい理由です。じっさいには、アイスをとかさないで見ることができる特別なきかいを使ったり、「電子顕微鏡」とよばれるもっと小さなものまで見ることができる特別なきかいを使ったりします。いろいろくふうをすることで、ようやく氷のつぶを見ることができるようになるのです。
(参考)アイスクリームの中を顕微鏡で観察した時の写真は、アイスクリームのメーカーや電子顕微鏡の会社のホームページなどに掲載されていることがあります。少し難しいですが、たとえば以下のサイトなどを参考にしてください。
https://www.icecream.or.jp/iceworld/qa/07.html
https://www.jeol.co.jp/solutions/applications/nano/details/20251202.html
(回答掲載日:2026年8月8日)
氷その他の現象 #アイスクリーム#氷の不思議なぜ雪に比べ霰や雹は硬く 体に当たると痛いのでしょうか?
なぜ、空から降ってくる雨や雪とは違い、霰や雹はあれほどまでに強く 人や物に当たると危険を伴うほど痛く硬いのでしょうか?(ワタリドリさん / 石川県・27歳)
これは、あられやひょうのでき方と関係しています。雪の結晶は、上空の雲の中に発生したごく小さな氷のかたまり(氷晶)に周囲の空気中に含まれる水蒸気が直接氷晶に吸い込まれることで生成します。このため、軽くてふわふわなのです。では、雪の結晶に吸い込まれる水蒸気はどこから補給されるかというと、結晶の周囲に浮かぶ雲粒(直径0.01〜0.04ミリ程度)が蒸発することによります。すなわち、雪の結晶の周囲には、必ずこのような雲粒がたくさん浮かんでいることになります。
さて、だんだん雲が濃くなり雲粒の数(密度)が増えてくると、雪の結晶に直接この雲粒が衝突するようになります。この雲粒は、結晶の表面に球形を保ったままで直ちに凍りついてしまいます。雪の結晶の写真や分類表には、”雲粒付き”という名前のついた結晶形がありますが、これらはこのようにして作られます。
では、さらに雲が濃くなって雲粒の数が増えるとどうなるでしょう。雪の結晶には、雲粒が次から次へと衝突して、凍りつくようになります。このようなときには、結晶の上に小さな氷の玉が折り重なって凍りつき、ちょうどぶどうのフサのような構造のものができます。これが、あられです。このため、あられは雪の結晶よりも硬くなり、当たると痛いと感じるようになります。
最後に、ひょうはどのようにしてできるのかを説明しましょう。もっと雲が濃くなって雲粒が密に存在すると、雪の結晶に衝突した雲粒が完全に凍りつく前に、次の雲粒がその上に重なって衝突してくるようになります。こうなると、結晶の表面には、液体の水の膜ができてしまい、それを通して氷が発達するようになります。こうしてできた氷のかたまりが、ひょうです。あられは氷の粒の集まりですので白く見えますが、ひょうは透明な氷のかたまりとして見えるという大きな違いがあります。ひょうは、発達した積乱雲の中などの強烈な上昇風が吹き荒れているところでできやすくなります。このような中では、ひょうも吹き上げられてなかなか落下できないので、時にはゴルフの球ぐらいにまで大きくなることがあります。記録では、こぶし大のものが観察されたこともあるそうです。こんな大きさの氷のかたまりが降ってきたら、ただ痛いだけでは済みません。ひょうが降りそうな荒れた天候になったら、ただちに頑丈な建物などに逃げ込むことが大切です。
(回答掲載日:2026年8月8日)
その他の現象 #霰#雹#雪の不思議雪の結晶をつくりたい
夏休みの科学けんきゅうにむけて、雪の結晶のけんきゅうをしています。平松式人工雪発生装置で、ドライアイスではなく保冷剤をつかってみたけど、温度がたりなくて結晶ができませんでした。なので、冷凍庫を-15℃にしてペットボトルを入れてみたけど結晶はできませんでした。なんで冷凍庫ではできないのか、おしえてください。(かねかねさん / 広島県・9歳)
雪の結晶の中でもっともよく知られた形は、木の枝の形をした樹枝状結晶と呼ばれるものですね。実は、雪の結晶の形は、結晶ができる場所の温度と周囲の空気に含まれる水分(水蒸気)の量によって変わります。この樹枝状結晶というのは、-15℃ほどの温度で、水分の量が非常に多いときにできることがわかっています。
さて、ドライアイスを使ったペットボトルの実験では、ボトルの底の温度はほぼドライアイスの温度(-78℃)になっています。しかし、ボトルのふたに近いところは外に飛び出していますので、部屋の温度と同じ(+20℃くらい)になっているはずです。すなわち、ボトルの中の温度は、底がとても冷たく上部が暖かいというように、場所によって大きく変化します。このため、ボトルの中には、雪の結晶ができやすい約-15℃の温度になっている場所がどこかにあるはずですね。このような場所に、雪の結晶ができているのです。
ご質問では、ドライアイスの代わりに保冷剤を使ったり、-15℃の冷凍庫を使ったとのことですが、この場合にはボトルの底の一番冷えているところでも、-15℃にしかなりません。このため、このボトルの中には、雪の結晶ができやすい-15℃の温度になっている場所がどこにもないということになりますので、綺麗な結晶ができないのです。解決方法は、冷凍庫の温度をもっと下げるなどして、ボトルの底の温度を−15℃以下にするしかありません。しかし、普通の冷凍庫では−15℃以下にはなかなか下がらないと思います。ペットボトルの実験でドライアイスを使っているのは、実は雪の結晶ができやすい温度を作り出すために、絶対に必要なことだといえます。
最後に、温度の問題が解決したとして、ペットボトルの中で雪の結晶を作るときのもう一つの大事なコツをお教えします。それは、ボトルの中の空気に、実験を始める前に十分に水分を含ませておくことです。ボトルに水を入れて内側を十分にぬらしておいたり、内側がくもるくらいにたっぷり息を吹き込んでおくと、ボトルの中の空気が十分に水分を含むようになるので、雪の結晶もできやすくなります。
(回答掲載日:2026年7月28日)
雪 #雪の結晶#人工雪#実験#雪の不思議チンダル像について
チンダル像は、溶質が混ざった水溶液を凍らせた氷でも作ることができますか?その理由も教えてください。(K.Cさん / 福井県・14歳)
チンダル像とは、氷の単結晶に光を当てると、”結晶の内側”から解けだしてできる、円盤や六角の樹枝状の形をした像のことを言います。氷が融けることでできるので、像の内部は液体の水で満たされています。チンダル像を作る時に使う氷の単結晶は、通常は純水を凍らせて作ります。では、純水ではなく溶質が混ざった水溶液を凍らせて作った氷を使った時でも、同じようなチンダル像を作ることができるかというのが今回のご質問です。
答えは、純水で作成した氷でも水溶液から作った氷でも、同じようにチンダル像を作ることができます。すなわち、たとえ水溶液から氷を作っても、出来上がった氷は純水を凍らせて作る氷と全く同じ性質をもつからです。これは、水溶液が凍るときは水分子だけが結晶に取り込まれて、溶質の成分は氷の結晶からは吐き出されてしまうからです。このため、出来上がった氷の結晶には溶質成分が含まれないため、もともと純水から作った氷と完全に同じものになります。
では、水溶液を凍らせて氷を作る時に、どんなことが起きているのかをもう少しだけ詳しく説明しましょう。容器に水溶液を入れて、それを冷やしていくと氷が発生します。氷の結晶は成長とともに溶質の成分を吐き出しますので、その成分は水溶液の中に取り残されます。こうして、氷の成長とともに、残った水溶液の中の溶質の濃度はだんだん高くなるということになります。やがて、水溶液全体が凍ると、溶質成分は氷と氷の隙間などに取り残されてしまいます。
例えば、色のついたジュースなどを冷凍庫で凍らせると、一見一様な色のついた氷になっているように見えます。しかし、拡大して観察すると無色透明な氷の部分とその隙間に濃縮されてジュースの成分に別れているのが分かります。凍ったジュースを口に入れると、最初の液体の時より甘く感じると思いますが、それはジュースの成分が濃縮されて残っているからです。
最後に宿題です。冷凍庫の中で、自分で水道水を使って氷を作ると、できた氷の中心部分に真っ白な部分ができることがあります。このような白い部分造ができる理由も、実は上に説明したことと関係しています。その理由をぜひ考えてみてください。お答えをお待ちしています。
(回答掲載日:2026年6月16日)
氷 #チンダル像#氷の不思議人工雪の成長限界について
自然界の雪は気温や水蒸気濃度の低下によってある点で成長が止まり、六方晶系になると認識したのですが、人工雪の場合気温と水蒸気濃度を一定量に保つことで無限に成長できるのでしょうか?それともある点で限界を迎えるのでしょうか?成長できる場合どのような形状になるのでしょうか?(YKSさん / 福島県・28歳)
一般に、結晶そのものには、成長(大きさ)の限界というものはありません。例えば、無限の広さを持つ空間の中で、成長できる条件を保っていれば、結晶はいくらでも大きくなれるはずです。しかし、現実には結晶を作る空間は限定されていますし、成長時間も無限にとれる訳ではないので、自ずから限界があります。また、結晶が大きくなるとだんだん重くなってくるので、その自重をどこまで支えることができるかということも問題です。あまり大きくなると、その重さを支え切れずどこかで壊れてしまいます。
このことを踏まえて、雪の結晶のことを考えてみましょう。天然の雪結晶の場合は、結晶が誕生してから地上に達するまでの時間はせいぜい1時間と言われていますので、時間的な制約もあります。また、この1時間がまるまる雪結晶の成長時間にはなるわけではありません。例えば、典型的な形の樹枝状結晶で見ると、その成長条件は−15℃前後に限定されますので、その条件になるのは1時間の中のごく一部です。樹枝状結晶では直径が3−4mmのものが非常に多く、10mmを超えることはまずありません。したがって、天然の樹枝状結晶ではこの程度が大きさの限界になると考えられます。さらには、結晶が大きくなると空中を落下する際の空気の流れに起因する力が加わります。実際、結晶のサイズが大きくなるほど、枝が折れた結晶などが多くなる傾向にあります。これも成長の限界に関連しています。
一方、人工の雪結晶では、一般に細いファイバーの上に結晶を作るので、少し事情は異なります。例えば、雪の科学館で毎日作成している人工雪結晶では、天然の結晶より枝は長くなります。これは、天然の結晶よりも成長時間を長くとれるからですが、それでも枝の長さが10-20 mmくらいになると、結晶の枝が折れてしまったり垂れ下がってきたりします。このことからも、人工の結晶の場合でもこの程度の大きさが限界と考えられます。
最後に、さらに大きな雪の結晶を作るにはどうすれば良いかを考えてみましょう。結晶が大きくなると自重で壊れることを避けるには、重力のないところで結晶を作ったらどうかということが思い浮かびます。すなわち、宇宙ステーションなどの無重力環境に巨大な雪結晶成長容器を設置して、その中で結晶を1個だけ浮遊させて、結晶の成長条件を長時間一定に保ち続ければ、理想的にはいくらでも大きな結晶を作れるはずです。しかし、これを実現させるには、技術的にも計画立案の面でも大きな困難が伴います。将来、人類がもっと自由に宇宙に出かけることができるようになった時には、きっと若い研究者がチャレンジしてくれるものと期待しています。
(回答掲載日:2026年5月22日)
雪 #雪の結晶#雪の不思議三つ以上の構造をもつ結晶はあるのか
雪の結晶が柱状に成長したあと角板ができると角板鼓という名称に、樹枝状に成長したあと角板状に成長すると角板付六花という名称になる。このように雪の結晶の成長途中で雲の環境が変わると結晶の形も変わるということはわかったのですが、雪の結晶のグローバル分類では二つの構造の組み合わせが多いですよね。例えば、樹枝付角板付六花のような三つ以上の(多層の)構造をもつ雪の結晶は存在するのでしょうか。成長に時間がかかることが予想されるのでかなり上空から降りてこないとできなさそうだなという想像はできます。また、もし存在するのであればどのような分類になるのでしょうか。(ザリガニさん / 新潟県・29歳)
雪の結晶の形の分類は、中谷宇吉郎による一般分類表が90年以上前に発表されて以来、多くの研究者が新たな分類表を発表してきました。質問にあるグローバル分類は、中谷の分類表に極地などの寒冷環境で観察される結晶形を加えたものです。しかし、日本列島付近のそれほど寒冷ではない環境で観察される雪の結晶は、中谷の分類表にすべて記載されています。そのため、我々が普段使う分類表としては、今もなおこれが十分に有効と言えます。
分類表は、多くの結晶写真を網羅的に集めたものに基づいており、少なくとも誰かが一度は目にしたことのある結晶のみが記載されています。言い換えれば、分類表にない結晶の形は、自然には存在しないと理解されます。したがって、分類表にない結晶形がもし存在したらという議論を始めると、分類表自体が意味をなさないものになってしまう恐れがあります
この点を踏まえて、「樹枝付角板付六花のような三つ以上の(多層の)構造をもつ雪の結晶は存在するか」という質問に答えると、それは「存在しない」となります。雲の中の気温は上空ほど低いため、結晶がたどる気温履歴は低温からより高い温度への一方通行です。つまり、雪の結晶形は成長初期には低温で観察される結晶形であり、成長するにつれて、より温度の高い条件で出現する結晶形へと変化するはずで、その逆は極めて起こりにくいと言えます。これが、雪の結晶形として、極端に複雑なものが現れることを抑制していると考えられます。成長時間の問題も関連はあると思いますが、このことだけではより複雑な形が現れるという決定的な理由とはなりません。
最後に、雪の結晶形の分類は、分類者がどのような基準でその分類を行なったかによって、形の境界線が異なってきます。雪の結晶の写真を見て、その結晶の名前を知りたいという質問がよくありますが、実際に分類表のどれに当たるのかを明確に答えるのは容易ではありません。そのため、あまり細かな形の分類を行うことよりも、雪の結晶の成長にともなう形の変化の特徴を捉えることがより重要になります。この視点に立つと、雪の結晶形は、六角板、六角柱、樹枝状、針状の4つの基本形に集約されます。その他の複雑な形は、これらの基本形の組み合わせや中間的な形として説明が可能です。すなわち、分類表を見ると形の違いだけではなくそれぞれの生成過程まで推測できるということです。こう考えると、中谷宇吉郎の「雪は天から送られた手紙である」という言葉の意味も見えてくるでしょう。
(回答掲載日:2026年4月28日)
雪 #雪の結晶#雪の不思議雲について
くもはどうしていろいろな形になるんですか?水でできていると聞いたのですが、水の量で形が変わるんですか?かみなりくもの中では水はこおっているんですか?それともこおっていないんですか?(りくさん / 石川県・9歳)
たしかに、雲はいろいろな形をしていますね。雲は、小さな水滴(雲粒とも言います)がたくさん集まってできています。白く見えるのは、水の粒が白いのではなくて、粒に太陽の光があたった時に光が散らばるからです。
では、雲はどうしていろいろな形になるのでしょう。飛行機にのると、雲の外にいるときにはほとんど揺れがないのに、雲の中に入ったとたんにゴトゴトと揺れだすことがありますね。じつは、雲の中ではいつも飛行機をゆらすほどの強い風がふいているのです。雲は、その風によって流されていますので、その影響で形がいろいろと変わるのです。
中谷宇吉郎雪の科学館には、中谷芙二子さんの作品である霧の彫刻があります。これは、人工的に発生させた霧が風に吹かれていろいろな形に変わる様子を表現したものです。霧は、雲と同じように小さな水滴でできていますので、雲の形が変わるのと同じです。今度、科学館に出かけたときは、ぜひじっくりと観察してください。
また、はじめに説明したように、雲は小さな水滴がたくさん空中に浮かんでできていますので、水でできていると言ってよいでしょう。水の量で雲の形が変わるかと言うことについては、水滴の数が多くなればなるほど雲も大きくなりますので、形もいろいろと変化すると考えて良いと思います。いっぽう、雲をよく見ると、形だけではなくて、白っぽくて明るい雲やこい灰色の雲などいろいろな色に見えますね。この雲の色の方が、雲の中の水の量(水滴がどれくらいぎっしり浮かんでいるか)にはより関係があると思います。たとえば、太陽がすけて見えるくらいのうすい雲では水滴の数はそう多くはないですが、水滴が非常にたくさん浮かんでいると、雲はだんだん光を通しにくくなり、灰色になってきます。
最後に、かみなりぐもの中では水は凍っているのかということですが、じつは雲から雨や雪がどうしてふってくるのかを考える時に、この質問はとても大事になります。それは、空に雲があるだけでは、雨や雪はふらないからです。最初に、雲は小さな水滴の集まりであると言いました。この雲の中の気温は、空高くなるほど下がり、やがて氷点下(0℃以下)になります。すると、空中に浮かんだ水滴の一部は、凍って氷の粒に変わります。この氷の粒のまわりにはまだまだたくさんの水滴が残っていますので、氷の粒はまわりの水滴から流れてくる水蒸気を取り込んでだんだん大きくなります。そして、目で見えるほどの大きさの雪の結晶になっていくのです。かみなりぐもは、こい灰色をしていることが多いですが、これは水滴がものすごくぎっしりと浮かんでいることを示しています。このようなときは、雪の結晶に水滴がちょくせつぶつかって凍りついてしまうこともあり、あられやひょうとしてふってくるのです。また、氷の粒どうしがぶつかることで電気が発生して、いなずまも起きるのですね。
雲は、空に浮かんでいろいろな形をとるだけではなくて、雨や雪を降らせたり、ときにはかみなりを起こしたり、さらにあられやひょうを降らせるなど、いろいろな気象を作り出すもとになっているのですね。雲をみながら、この雲はどんな役割をしているのかなと考えてみてください。いろいろと面白いことに気がつくと思います。
(回答掲載日:2026年4月28日)
雪水その他の現象 #雲#雪の不思議五角形の雪の結晶は作ることができますか
毎年、冬の時期になると、五角形や八角形をした雪の結晶のオーナメントが飾られることがあります。雪の結晶は、六角形だと思いますが、五角形や八角形のものも人工的に作ることができるのですか?(元夢の国の住人さん / 東京都・31歳)
雪の結晶の外形は六角形が基本構造ですが、これは雪の結晶を作っている水分子が六回対称を作るように配置されて並んでいることに起因しています。したがって、雪の結晶の外形が五角形や八角形などになることはありません。実際に、雪の結晶の写真を見ると、外形が三角形や四角形に見えるものも稀にあると思います。しかし、これらは六角形の結晶が、生成の途中で一部分のみが成長したり、あるいは落下中に壊れたりしたものにすぎないことに、注意してください。すなわち、全ての雪結晶は六角形であることが基本なのです。
また、雪の結晶の形は、生成する時の気象条件、すなわち気温と湿度で変化することが明らかになっています。しかし、その他の環境条件(たとえば、気圧、電場、空気に流れ、大気中の不純物などさまざまあります。)が変わると、通常では見られない形の結晶が現れることも知られています。しかしこれらも、水分子の配列そのものに影響を与えるわけではないので、基本的に六角形の範疇に収まるものです。したがって、質問にいただいたような、五角形や八角形などの雪の結晶は、天然であっても人工的であっても出現する可能性はありません。
一方、オーナメントなどでは、六角形だけではなく、四角形や五角形、さらには八角形などの結晶パターンも雪の結晶と呼んでいることは多々あります。これは、単にデザインとして作られたものですので、実際の雪の結晶の形とは特に関連はありません。デザインとして美しいものであれば、特に六角形だけにこだわる必要もないと思います。
(回答掲載日:2026年4月17日)
雪 #雪の結晶#雪の不思議ドライアイスと普通の氷はどう違うの?
ドライアイスも氷と同じで、ものを冷やすことができるけど、ドライアイスは触ると危ないし、煙みたいなのが出るのが不思議です。氷とは何がどう違うんですか?(ヤンヤンさん / 石川県・10歳)
氷とドライアイスは、どちらもとても冷たくて、何かを冷やしたいときに便利ですね。氷は、よく知っているように水が凍ってできたものですが、ドライアイスは二酸化炭素(炭酸ガス)でできた固まりです。この二酸化炭素というのは、私達の地球の空気中に含まれていて、最近いろいろと話題になる地球温暖化を引き起こす物質の一つとして知られていますね。
氷とドライアイスは、その原料が違うために、その性質も大きく異なっています。氷は、0℃で融けてしまいますので、氷で何かを冷やしてもこの温度までしか冷やすことができません。一方、ドライアイスは、この温度がおよそ−79℃と氷よりもずっと低い温度になります。台所にある冷凍庫の温度は、せいぜい−20℃くらいですので、これより60度近くも低い温度ですね。したがって、氷よりもドライアイスのほうが、より冷やすことができるということになります。ドライアイスから白い煙のようなものがでているのは、ドライアイスの固まりの周囲にある空気もものすごく冷やされますので、空気中にあった水分が霧となって見えているのです。
しかし、氷とドライアイスでは大きく違う点があります。氷は時間がたつと融けて、液体の水にもどります。しかし、ドライアイスは、時間がたっても液体にはならず、その固まりがだんだん小さくなるだけで、そのまま消えてしまいます。これは、ドライアイスは、固まりの状態から直接気体である二酸化炭素となって、空気中に広がってしまうからです。
最後に、ドライアイスをあつかうときの注意を書いておきましょう。ドライアイスは、−79℃ととても冷たいので、素手で触ると皮膚がくっついてしまったり、凍傷になったりしてしまいます。したがって、軍手などの少し厚めの手袋をつけてあつかうことがとても大事です。また、ドライアイスを換気の悪い場所におくと、ドライアイスから発生した二酸化炭素のガスがあたりに充満します。その中に入ると、酸素がなくなって呼吸ができなくなりとても危険です。もし、ドライアイスを使うときには、屋外や換気の良い場所であることを十分に確かめて、誰か大人の方と一緒に使うように気をつけてください。
(回答掲載日:2025年2月15日)
氷 #ドライアイス#氷の不思議過冷却水について
気温が氷点下をきった外で過冷却水を作りました。蒸留水や水道水など、いろいろな水で作ってみたところ、それぞれの過冷却水のできやすさが違う気がしました。水溶液の種類によって、過冷却水のできやすさは変わるのでしょうか。また、水の純度なども関係するのでしょうか。(氷博士になりたいにゃーこさん / 栃木県・15歳)
過冷却水を作る実験、簡単そうですが、実際に行ってみるといろいろと不思議なことがたくさんありますね。どんな水を使うかで過冷却水のできやすさが違うということに気がついたことも、とてもよく観察できていて、素晴らしいと思います。
質問の回答を始める前に、過冷却水のできやすさとは、どういうことかをもう一度考えてみると、これは過冷却水が凍りやすいかどうかということに言い換えることができますね。したがって、過冷却水がどのようにして凍り始めるのかを考えることが大事になります。
過冷却水の凍りやすさは、実はどのような水を使ったかということだけではなく、水の温度や量、水の入った容器、水溶液であればその溶質(溶け込んでいるもの)の種類や量など、さまざまな理由で変化します。これを完全に理解することは、実はとても難しいことで、いまもまだ正確には答えることができない問題が数多く残されています。ここでは、過冷却水が凍り始めるときに何が起きているのかを考えてみましょう。
ある容器に入れた水を冷やして過冷却水を作ったときに、その過冷却水が凍り始めるのは、その容器の中の何処かに最初のごく小さな氷の粒ができたときと考えることができます。このような氷の粒(すなわち氷の核)ができるという現象を、「核生成」と呼びます。核生成で発生した氷の核は、そのまま過冷却水の中を成長し、やがて容器の中の過冷却水は全部氷に変わることになります。このプロセスは、「過冷却が破れる」と表現したりします。
では、この核生成の起こりやすさは、どんな性質に関連するのでしょうか。その一つ目は、もちろん過冷却水の温度です。過冷却水の温度が下がるほど、核生成が起こりやすくなります。すなわち、温度が下がるほど、過冷却水は凍りやすいのですが、これは実験での直感とも一致すると思います。
二つ目は、過冷却水の量です。過冷却水の温度が同じであっても、その量が多いほど凍りやすくなります。その理由は、過冷却水のなかのどこかに最初に氷の核が発生したら、その氷の核が過冷却水の全体を凍らせるきっかけになるからです。すなわち、過冷却水の量が多ければ多いほど、その中のどこかで最初の氷の核が発生する割合が増えます。このため、温度が同じであっても、量が多ければ凍りやすいということになります。
三つ目は、過冷却水を入れている容器の影響です。私達が過冷却水を作ろうとすると、水は必ず何らかの容器に入れなければなりません。この容器をどんなに綺麗にしても、その表面には、必ず細かな傷や凸凹などが残っています。このような表面に過冷却水が接していると、その傷や凸凹によって、氷の核が発生しやすくなります。このため、過冷却水の温度や水量が同じであっても、どのような容器を使っているかで過冷却水が凍りやすいかどうかが変化してしまいます。また、これと関連して、水中に存在する小さなゴミの粒などの影響もあります。このような粒も、氷の核を発生させやすくするもとになります。
最後に、海水など、不純物が溶け込んだ水溶液の過冷却についても考えてみましょう。水溶液の場合であっても、上に述べた条件はそのままであてはまるのですが、ひとつだけ他の要素が加わります。それは、水溶液に溶け込んでいるもの(溶質と言います)の濃度が高くなればなるほど、その融点(凍結温度)が下がるということです。例えば、約3%の塩分が含まれる海水の融点は、0℃ではなくおよそ−2℃になります。したがって、海水の場合は、温度が−2℃以下にならないと過冷却水とは言いません。水溶液の過冷却水の場合は、この融点が下がる分だけ過冷却の温度も小さくなることになりますので、純粋な水に比べると凍りにくくなります。
以上のように、過冷却水が凍りやすいかどうかは、多くの条件が関係していますので、簡単に何が原因で氷の核が発生したのかを述べることはとても難しいという事がわかると思います。最後に、どのような条件にすれば過冷却水をできるだけ凍らせることなく保てるかを考えてみましょう。上に述べた条件を考え合わせると、使用する水をできるだけ綺麗にし、量をできるだけ少なくして、なおかつ容器に入れないでおくというのが良さそうということがわかりますね。上空の雲の中にある雲粒(水滴)は、実はこの条件を満たしているのです。すなわち、雲粒は非常の小さく(直径が0.01mm以下)、空中に浮かんでいるので容器の影響がありません。このため、雲粒は過冷却状態になってもなかなか凍らずに、長い時間安定して存在することができるのですね。実際、このような水滴は、―40℃近い温度になるまで凍結せずに過冷却の状態でいることができることがわかっています。
最初に述べたように、過冷却の問題はとても複雑で、まだよくわからないことも沢山あるのですが、一つ一つの条件をよく考えていくと、その関連がわかってくると思います。ここに述べた回答は、かなり難しいかもしれませんが、その入り口となるはずです。この過冷却とは、とても奥が深くまだまだ謎の多い問題であることがお伝えできたら嬉しいです。
(回答掲載日:2025年2月15日)
水 #過冷却水#実験#水の不思議窓霜(窓氷)ついて
きれいな窓霜(窓氷)を作りたくて実験をしています。車の中に寝る前に熱いお湯を鍋に入れて置くと-5度くらいの日は羽毛のようなお花のような窓氷が車の内側にできました。色々な模様や綺麗な窓氷を作りたくて、折り紙を貼ってみたりしましたがあまりうまくいきません。−5度くらいの気温でもきれいな窓霜(窓氷)ができる方法を教えてください。色々な窓霜(窓氷)をたくさん作って写真に集めたいです。(くろまめさん / 北海道・10歳)
北海道といっても、最近は窓の断熱性能が良くなり、窓霜や窓氷などもあまり目にすることがありません。スキー場などに行くと、少し古いロッジなどではまだ見ることができますね。
さて、窓霜や窓氷(注1)を作るには、十分に冷えたガラスの表面が水蒸気をたっぷり含んだ空気に触れることが条件です。“車の中に寝る前に車内に熱いお湯を鍋に入れて置く”というのは、この条件を作り出すには良い方法です(注2)。窓霜や窓氷ができるためには、外気温、ガラスの表面の温度、ガラス面に触れる空気の温度や湿度、さらにはガラスの表面が綺麗かどうか、傷があるかどうかなど、たくさんの条件が関係します。したがって、どの条件で実験を行えば、どんな形のものができるかを簡単に述べることは難しいです(注3)。
ですので、発想を変えて、窓霜・窓氷を作るときの気温やお湯の温度などを測定して記録に残し、そのときどんな形のものができたかを写真に残したらどうでしょう。ガラスを綺麗にみがいたり汚れたままにしたりでも、でき方が変わるはずです。最近は、温度計や湿度計なども比較的安く入手できますので、それらをいくつか用意して、どんな条件であったかを測りながら実験を進めると、面白い結果が得られるかもしれません。また、ガラスの蓋がついた密閉した容器に水を少しだけ入れて、冷凍庫に入れておくだけでも、窓霜あるいは窓氷を作ることもできます。この場合は、冷凍庫の温度を変えたり、容器の中の水の量や温度を変えたりすると、良い条件をさがすこともできると思います。いろいろと工夫をしてみてください。接写写真や早送り映像(タイムラプス撮影)など、窓霜・窓氷の観察に適した撮影法も、今はスマホなどで簡単にできます。面白い実験の結果が出たら、ぜひ教えてください。
注1:窓霜や窓氷については、本Q&AのQ35、Q38、 Q82などの回答も参考にしてください。
注2:ただし、車の窓の内側に窓霜や窓氷ができると、窓の外がよく見えなくなります。そのままで車を動かすととても危険ですので、車を使うときは車を運転するご両親ともよく相談してください。車でなくても、玄関フードや屋外に接する窓がある物置など、窓が曇っても危険がない場所があったら、それを利用すると安心です。
注3:当館で紹介する中谷宇吉郎先生は、今から70年以上前(1948年)に「霜の花」という科学映画を作成しています。この映画では、窓霜や窓氷のできる様子を早送りの映像でたくさん紹介しています。この現象を記録した映画としては、世界初のものです。この中で、中谷先生は、気温や湿度さらにはガラスの表面の状態を変えて、そのときにどんな窓霜、窓氷ができたかを記録しています。雪の科学館では、時々上映会を開催しています。
(回答掲載日:2025年1月16日)
その他の現象 #窓氷#霜#窓霜#実験#氷雪氷と氷雪の言葉について
「雪氷」という言葉の他に「氷雪」という言葉もありますが、この二つの言葉の違い(使い分け)は何でしょうか。(スノーアイスさん / 東京都・30歳)
「雪氷」も「氷雪」も、“雪と氷”を意味する言葉であって、両者の間に特に区別はありません。ただ、学術の世界では、「雪氷」ということが多いようですが、これも特に理由はないと思います。
しかし、この言葉は、ちょっと不思議な表現であることを指摘しておきたいと思います。雪と氷というと、両者を並列に並べていることになりますが、雪も氷もH₂Oという物質の結晶体(固体)という意味では、同一のものです。このことを考えると、両者を重ねて一つの言葉として使うことには、すこし違和感があります。
一方、雪は、上空の雲の中で水蒸気から直接できたH₂Oの結晶体であるのに対し、氷はH₂Oの水(液体)から直接できた結晶体であるという違いがあります。すなわち、同じH₂Oの結晶体であっても、そのでき方が違うのです。その意味では、雪と氷は区別できるので、この2つを並べた言葉も成立するのかなと思います。
ところで、地球上には大量のH₂Oが存在します。その大部分は、液体の水の形で存在しますが、特に地球寒冷圏ではその一部が結晶体(固体)となっています。ここでは、その結晶体の多くは、もともとは雪として地上に降り落ちたものであることを指摘しておきたいと思います。まさに空から降り落ちてくる雪は、上空の雲の中で水蒸気からできたものですので、それが積もった積雪も、もともとは水蒸気から生成されたものです。では、南極などの極寒地には、氷床と呼ばれる氷の塊が存在するという意見がでそうです。しかし、この氷床の氷も、もともとは降り積もった雪が長年の間に圧縮されて氷の塊になったものです。したがって、その最初はやはり水蒸気からできたものということになります。こう考えると、地球上に存在するH₂Oの結晶体は、その多くがもともとは雪であったと言うことができます。
(回答掲載日:2024年12月12日, 編集日:2025年2月16日)
雪氷 #氷の不思議#雪の不思議宇宙の水(氷)の総体や身体の氷
①以前、「宇宙の水の総体はかわらず、循環しながら水はあるので、太古の水を私たちは雨や雪などを通して飲んでいるのだそうですよ」と教えていただいたことがあります。その通りでしょうか? ②循環した水が、氷となって雪となって空から降ってくる時に植物や動物やいろいろなものを通過した氷や雪も、水のように記憶を運びますか?その時は結晶やなにか固有の特性はありますか?(Cuuさん / 岐阜県)
水は、水素と酸素が結合した分子(H2O、水分子)でできた物質です。したがって、水そのものには、太古のものや現在のものというような区別は、存在しません。現在私達の周りのある水は、宇宙が誕生し進化する過程で、ある時に大量の水分子が生成され、それらが現在の地球や宇宙空間にそのままで残されているというのは、もちろんそのとおりです。しかし、最初に述べたように、水は一つの物質に過ぎないので、宇宙で初めて生成された頃の水と現在私達の周りにある水の間には何ら違いがなく、両者を区別することも意味のないことです。
また、一つの物質に過ぎない水には、それが記憶を持つというようなことも、なんらかの意図を持つといったことも、絶対にありえません。したがって、水がどのような循環をしたとしても、水にその記録が残ると言ったこともありません。さらに、雪や氷は、水という物質が固体の状態になって存在しているだけですので、その水が過去にどのような循環をしたかということは、雪や氷の特性に影響を与えることもありません。雪や氷の結晶形や特性は、その結晶がどのような過程を経てできたかに依存します。しかし、これは科学的な考察の結果としては、結晶ができるときの気象条件によって形が変化するということであって、決して人間の意図や記憶、意識といったものを反映するものではないことも明らかです。
水、氷、雪というと、私達のきわめて身近にあることや、生き物の生命維持に重要な役割を果たしているというようなことから、水そのものが何らかの記憶を持つとか、人間の意図を理解できるというような怪しい言説が流布されることがあります。しかし、水という物質そのものが、そのような性質を持つことは、科学的に絶対にありえないので注意が必要です。このことに関連する質問の回答が、本Q&AのQ.81にもありますので、そちらも合わせて御覧ください。
(回答掲載日:2024年9月6日)
人工雪について
私は学校の課題研究で雪について研究しているのですが、人工雪の仕組みや人工雪のコスト、環境問題などを知りたいです!また、先生はこの先もスキーをすることは可能だと思いますか?もし最新の人工雪について知っていることがあれば教えて欲しいです!!(おくとさん / 神奈川県・15歳)
ご質問は、スキー場などで雪が不足している時に使われる人工降雪機で作成された雪のことについてだと思います。残念ながら、私は、人工降雪機については詳しくありませんので、その原理的なことしかお答えすることはできません。
まず、人工降雪機とは、次のような原理で雪を作っています。まず、氷点下になった大気中に高圧ノズルを使って水を噴霧させることで大量の微水滴を空中に浮遊させます。すると、その微水滴は冷やされて凍結し、小さな氷の粒に変わります。この氷の粒を大量に降り積もらせることで雪を作成しています。この装置で作られた人工の積雪は、水滴が凍ることでできた大量の氷の粒でできているので、空から降ってきた雪の結晶が降り積もってできる天然の積雪とは、全く異なった性質のものになります。天然の雪の結晶は、上空の雲の中で生成された微細な氷の粒が、雲の中を落下しながら周囲の空気中に含まれた水蒸気を直接取り込むことで生成されます。このため、雪の結晶は、非常に複雑な形をしていて、これが降り積もった積雪は、ふわふわでとても柔らかいものになります。これに対し、人工降雪装置で作成した雪は、水滴が凍ってできた丸い氷の粒でできているので、天然の積雪に比べると固くしまったものになります。そもそも、積雪のでき方が天然と人工では異なることが、このような特性の違いを生み出しているのです。
また、この先もスキーができるかどうかですが、恐らく地球温暖化の進行による気温の上昇による影響を心配されているのだと思います。現在のまま地球温暖化が進行すると、当然多くのスキー場で雪が不足し、スキーもできなくなるでしょう。いつまでもスキーができる環境を維持するには、私達一人ひとりが、地球温暖化を食い止めるために、何をすべきかを考え、直ちにそれを実行することが大事です。私達にできることは何か、ぜひいろいろな方法で調べてみてください。
(回答掲載日:2024年9月6日)
雪 #スキー#雪#人工雪#雪の不思議雲の仕組みと氷、雪との関係性について
私は小学5年生で、夏休みの課題で図書館の本を使った調べ学習というのを「雲」というテーマで調べています。本を読んでいくうちに、過冷却の仕組みが、雲から雪になるイメージと関係あることが分かったのですが、そちらのホームページでも、0℃でも水が凍らない理由から過冷却の仕組みが理解できました。でもとても難しくて、完ぺきな理解は出来てません。他にも、雲と氷、雪の関係性にあてはまる言葉や仕組みなどをいろいろ調べたのですが、最後は結果どのようなことだったのかっていうまとめの所にまだたどりつくことが出来てません。雲、雪、氷と全体を見ようとすると、とても難しいなと思っています。雲と結びつくような言葉だったり、氷と雪の関係性などをもう少しくわしく分かりやすく知りたいな、教えてもらいたいなと思って問い合わせをしました。(めーたすさん / 石川県・10歳)
とてもよく調べて勉強していますね。大事なポイントに気がついていて、感心しました。過冷却という現象が、雲、雪や氷の生成などと密接に関連しているとよく説明されます。しかし、ではどんな関係があるのかは、とても難しい問題で、なかなかうまく説明することができません。ここに何か問題がありそうだということに気がついただけでも、素晴らしいと思います。ご質問に関連する話題で、いくつか説明しましょう。
まず、雪の結晶は上空の雲の中で作られます、と説明され、あまり疑問に思うことがありません。しかし、このことは、液体の水の過冷却と雪の結晶の成長との関連について考えることで、その理由がわかります。雪の結晶は、その結晶の周りにある空気中にある水蒸気から、直接できてきます。しかし、雪の結晶が大きくなるためには、周囲の水蒸気が使われますので、結晶の周りの水蒸気の量はだんだん減ってくるはずですね。雪の結晶がさらに大きくなるためには、この水蒸気がどこかから追加されないといけません。この水蒸気を追加するしくみに、実はこの過冷却という現象が大事な役割を果たしているのです。すなわち、雲の中にある雪の結晶の周囲には、水蒸気だけではなく、たくさんの雲粒(過冷却した水でできた小さな水滴)が存在しています。この雲粒は、だんだん蒸発をして、周囲の空気に水蒸気を追加する役割を果たしているのです。すなわち、過冷却した雲粒から雪の結晶に向かって水蒸気の流れができていて、この流れによって雪の結晶は大きくなり続けることができるということになります。この雪の結晶が大きくなり続けることを「結晶の成長」と言いますが、雲の中でこれが起きる理由になります。(なぜ、過冷却した雲粒から雪の結晶に向かう水蒸気の流れができるのかというのも、疑問ですね。そのことも説明できるのですが、さらにむずかしいお話になってしまいますので、また他の機会に説明しましょう。)
また、雪と氷と言うことについても、少し説明しておきましょう。雪も氷も、どちらも融ければ液体の水ですので、どちらも、全く同じ物質です。ではなぜ、この2つの呼び方があるのかということを考えてみましょう。一般に、雪と呼ぶときには、雪の結晶やそれが降り積もった雪(積雪)などがあります。これらの共通点は、上空の雲の中で“水蒸気から直接氷の結晶ができたもの”が、もとになっているということです。一方、氷は、液体の水を冷やして凍らせることでできたものと言うことができます。氷を削ってかき氷にすると、雪のように真っ白でふわふわになりますが、これを雪とは呼ばないのはこのためです。このように、本来は全く同じものであるのに、そのでき方の違いで呼び方が変わるのは、とてもおもしろいと思いませんか?雪や氷以外のものでは、このようなことは絶対にありません。また、この他にも自然界にある雪や氷には、その状況の変化によって、さまざまな呼び方があります。それらがどのようにしてできたのかを調べると、雪と分類すべきか氷と分類すべきかを分けることができると思います。このような視点で雪や氷を眺めて見るのも、とても興味深いのではないかと思います。
(回答掲載日:2024年8月25日)
雪氷 #雪#氷#氷の不思議#雪の不思議未来に繋がる研究
中谷宇吉郎の研究は、現代における私たちの身近な部分でどんな役にたってるの?事例が知りたい!(ひーさん / 京都府・21歳)
中谷宇吉郎は、今から90年以上前に雪や氷に関する物理的研究を開始したことでよく知られています。現代から見るとずいぶん古い研究でもあり、一時期はすでに完結した研究と言われたこともあります。しかし、雪や氷に関する研究というのは、現代でも、いや現代になってさらに重要な位置を占めるようになっています。そのいくつかを紹介します。
まず、雪や氷、もう少し広く言って寒冷圏に関する科学は、地球科学や環境科学などの分野で極めて重要です。たとえば、我々人類にとっての喫緊の課題である地球温暖化に伴う気象や気候の変動は、寒冷圏になるほど顕著な影響が現れると考えられています。ヨーロッパアルプスにおいて氷河が縮小していたり、北極海の海氷が消えてなくなりそうになっていたり、南極の氷が融け出していたりという話は、最近良く耳にします。これらの現象は、雪や氷が0℃を境に固体と液体の状態をとるという特性と密接に関連しています。すなわち、雪や氷の成長や融解などの相転移と呼ばれる現象の理解が、このグリーバルな現象の理解や解決を図るうえで重要な鍵になります。中谷宇吉郎が研究を行った頃は、地球温暖化などの問題はありませんでした。しかし、中谷はその随筆の中で、二酸化炭素のガスが地球の温暖化の引き金になる可能性をすでに指摘してます。雪や氷の研究を通じて、地球に起きる将来の大問題を予見していたとも言えるでしょう。
さらに、雪や氷の特性に関する研究も、現代科学のさまざまな分野で生かされています。例えば、中谷の人工雪の研究は、結晶はどのようなしくみで成長するのかということを研究する結晶成長学の分野でも、その先駆的な研究として知られています。驚くことに、中谷が研究を行った1930年代には、結晶は時間とともに成長していくという基本的な概念がまだ一般的になる前になされたものであることです。雪や氷の結晶をもとに結晶の成長のしくみを明らかにすることで、どんな結晶にも当てはまるこの現象の基礎的な知識を得ることができるのです。この研究分野は、新たな基盤材料の開発や半導体基板のベースとなる人工結晶の生成など、日本の戦後の科学技術の発展を支えました。雪や氷という身近に存在する結晶の研究で得られた基礎知識が、現代の私達が享受する科学技術の発展とも関連があるのです。
さらには、近年では、我々の住む地球だけではなく、惑星空間にも大量の氷が存在することが知られています。このような氷は、惑星系の進化にともなう新しい分子の生成や生命の起源とも深く関連し、さらに人類が宇宙探査に出かけるときの水の確保などでも、極めて重要なものです。中谷が研究を行った頃には、もちろんこのような事実さえ知られていませんでした。しかし、ここでも中谷の行った研究が、その源流として今も息づいていることに、もうお気づきのことと思います。氷と宇宙、そして生命進化との関わりについては、本科学館で行われた講演会の様子を紹介する記録もあり、YouTubeチャンネルにおいて公開されています。
中谷宇吉郎が研究を行ったのは、1930-60年代の間です。もちろん、中谷の研究成果が現代の研究と直接的に関連することは少なくなってきました。しかし、現代の新しい科学のルーツを探ると中谷の研究に行き着くということが、今日でもよくあります。中谷宇吉郎が創設に関わった北海道大学附置の低温科学研究所では、雪や氷、そして地球から惑星空間にまで拡がる寒冷圏で起きるさまざま現象、さらには寒冷圏と生物の関連に関する研究に至るまで、非常広い分野の研究が行われて、大きな成果を上げています。ここでは、まさに、中谷の行った研究が、今も息づいているのです。
最後に、物理学者であった中谷の研究が、現代物理学とどのような関連にあるのかも、大変興味深いポイントです。これについては、岩波書店発行の雑誌「科学」の巻頭エッセイ(下記のサイト)に説明がありますので、これも参考にしてください。
(回答掲載日:2024年8月27日)
その他の現象 #中谷宇吉郎