教えて館長!雪と氷のQ&A

皆さまから寄せられた雪や氷の質問・疑問に、古川館長がお答えしました!

古川義純先生

古川 義純(ふるかわ よしのり)先生

中谷宇吉郎雪の科学館 館長 / 北海道大学 名誉教授


日本結晶成長学会の会長や、北海道大学の低温科学研究所の所長などを歴任し、国際宇宙ステーション「きぼう」で氷の成長の宇宙実験を行ったことでも知られています。


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Q29

ふわふわかき氷と砂糖水

先日テレビで、ふわふわのかき氷を作るには、砂糖水で作った氷を使うといいという放送を観ました。天然の氷で作ったようになるそうです。なぜ砂糖水の氷でかき氷を作るとふわふわになるのでしょうか?(ミキさん / 石川県・33歳)

 私はテレビの番組を視聴していないのですが、砂糖水で作った氷は溶ける温度が0℃よりも低くなります。このことが、かき氷のでき具合に関係していると考えられます。

 砂糖などの入っていない純粋な水で作った氷は、0℃で溶けます。天然の氷も同じで、通常は何も溶け込んでいない真水が凍ってできていますので、この氷も0℃で溶けます。かき氷は、冷凍庫などに保管していた氷の固まりを取り出して、そのまますぐに削って作ることが多いと思います。冷凍庫の温度は−20℃近いので、ここから取り出した氷の固まりをすぐに削ると、溶ける温度よりもかなり低い温度のままで削ることになります。温度の低い氷は大変硬いので、これを削るとなかなかふわふわのかき氷にはなりません。しかし、冷凍庫から出した氷をしばらく室温においておくと、温度が上がって少し柔らかくなります。この氷を削ると、ふわふわのかき氷になるはずです。天然の氷で作ったかき氷はふわふわになるというのはよく聞きますが、実はこの原理を利用しています。すなわち、冷凍庫から出した氷をすぐに削るのではなく、しばらく室温において温度を上げてから削っているのです。

 さて、砂糖水を凍らせた氷は、溶ける温度が0℃よりも低くなります。これは、「モル凝固点降下」という現象で、砂糖に限らず水に溶かした不純物の量が多くなるほど溶ける温度が下がることを示しています。砂糖水の氷を冷凍庫に入れておくと、やはり−20℃近くに冷えているはずですが、溶ける温度との温度差は純粋な氷の場合より小さくなります。したがって、冷凍庫から取り出してすぐの状態で較べると、砂糖水の氷のほうが柔らかいということになります。したがって、冷凍庫から取り出してすぐの氷でも、ふわふわのかき氷ができるのだと考えられます。

 ところで、溶けていた砂糖は、氷になるとどこに含まれているのでしょうか?氷の固まりは、たくさんの小さな氷の粒が集まってできています。粒のひとつひとつは氷の結晶ですので、結晶の内部には砂糖などの分子は入り込むことができません(Q20の回答も参考にしてください)。したがって、砂糖水が凍ると、砂糖を含まない氷の粒がたくさんでき、砂糖は粒の外に押し出されることになります。このため、粒と粒の間の境目には濃縮された砂糖水の膜が残ります。この膜は、溶ける温度が非常に低くなりますので、冷凍庫の中でもまだ液体のままで残ります。すなわち、氷の粒と粒の間に潤滑剤を塗りこんだような状態になります。これが、氷の固まり全体を柔らかくする作用をもたらしているのです。

(回答掲載日:2021年10月12日)

生活・文化 #かき氷#実験#氷の不思議#砂糖
Q28

北陸の雪

北陸の雪は水分の多い雪と言われますが、雪の何処に水分を含んでいるのでしょうか。 教えてください。(スノーマンさん / 福井県・15歳)

 北陸の雪は水分が多いと良く言いますが、確かに雪の中に水があるようには見えませんね。

 一つ実験を行ってみてください。かき氷を台所にあるじょうごに入れてみましょう。特にかき氷の中に水があるようには見えなくても,じょうごの出口からは水がしたたり落ちてくるはずです。このときの水は、かき氷がすこしずつ溶けているために出てきた水です。実際は、かき氷の粒の表面は溶け出した水の膜で覆われているはずですが、水も氷もどちらも無色透明ですので、私たちの目には水の膜の存在をなかなか見ることができないのです。北陸の雪は、このかき氷の状態になっていると考えてください。積雪の中でも、雪の粒の表面には目には見えなくても溶けた水分が存在し、溶けた水はすこしずつ下に向かって流れ出しています。北陸の雪は水分が多いというのは、北陸では冬と言っても気温が高いので、雪の粒がすでに溶け始めているために、水分量が多くなっているのです。

 さて、この雪が溶けている状態では、雪の温度は0℃になっているはずですね(本Q&AのQ23の回答も参考にしてください)。では、雪の温度が0℃以下になったときには、雪の水分は完全に凍ってしまい、無くなってしまうはずですね。しかし、実際には雪が0℃以下になっても、雪の中の水分が完全になくなることはありません。これは、雪粒の表面の性質に関連しています。雪粒の表面、すなわち氷の表面には、温度が0℃以下になっても極めて薄い水の膜が存在しているのです。このような水が存在するので、氷点下になっても雪の中には必ず水分が含まれているということになります。

 ところで、このような現象は表面融解と呼ばれ、この水の膜を擬似液体層と呼んでいます。氷の表面の水は、コップの中の水とはすこしだけその特徴が異なるので、“擬似”という言葉がついています。擬似液体層の存在は、氷の滑りやすさとも関連しています。例えば、スケートは、氷が0℃より低い温度でもとても良く滑ります。床に水をこぼすととても滑りやすくなり危険ですが、これは床に広がった水の膜が潤滑剤の役割をするためです。氷が滑りやすいのも、これと同じく擬似液体層が潤滑剤の役割をするためと考えられています。氷の表面の擬似液体層は、もともと1850年頃に物理学者のファラデーがその存在を予言したものです。それから150年以上がたった現在、私たちは、この疑似液体層が氷の表面で実際にどんな運動をするのかを直接観察することができます。詳しいお話は、このQ&AのQ14の回答に説明がありますので、参考にしてください。

(回答掲載日:2021年8月31日)

生活・文化 #実験#表面融解#雪の不思議
Q27

雪の結晶のそだちかた

雪の結晶が成長する動画を見ました。そこで気付きました。のびていく手の速さがみんなそれぞれすこし違うのに(はやくのびる手があったり、少しおくれてのびる手があったりするのに)、最後はぜったいに同じ長さやかたちになるのはなぜですか。(Kaoriさん / 海外・8歳)

 とてもおもしろいところに気がつきましたね。動画をよく観察してくれていると感心しました。

 そうですね。よく目にする雪の結晶が成長する動画では、手(手の1本1本が木の枝のような形をしていますので、“枝”と呼ぶことが多いです)がのびていく速さがそれぞれ違っていますね。でも、よく写真で見るようなきれいな天然の結晶では、どの手の長さも同じですし、6本の手の形もよく似たものになっています。これは、動画で観察している雪の結晶は、実験室のなかで人工的につくっているものであることと関係しています。天然の雪の結晶のできかたと、人工の雪の結晶のできかたとをくらべてみると、質問のこたえにたどりつけると思います。

 少しむずかしいお話になりますので、ちかくの大人の方といっしょに読んでください。はじめに、雪の結晶は、結晶の周りの空気中にある水蒸気を原料として、だんだん大きくなっていきます(このQ&AのQ21の回答も、参考にしてください)。これを結晶が成長するといいます。すなわち、雪の結晶の6本の手のさきに水蒸気がどれだけ集まるかによって、手ののびる速さが変わるのです。とうぜん、水蒸気がたくさん集まる手のほうが、よりはやくのびることになりますね。

 では、まず天然の雪の結晶のできかたを考えてみましょう。天然の結晶は、上空の雲の中で空中に浮かんだままで成長します。この結晶は、空中で自由に動きまわることができますので、結晶の手に集まってくる水蒸気の量は、6本の手でまったく同じになるはずですね。したがって、せんぶの手ののびる速さが同じになります。このため、結晶が大きくなったときも、6本の手の長さや形がおなじになるはずですね。

 いっぽう、映像で見ている人工の雪の結晶では、結晶を細い糸などにつるして成長させます。こうしないと、結晶は下に落ちてしまいますので、成長の様子を観察することができません。すなわち、糸につるされた結晶は、天然の結晶のように自由に動き回ることができないのです。このため、6本の手の先に集まってくる水蒸気の量は、手によってどうしても少しずつの違いが出てきてしまうので、ながい手やみじかい手ができてしまうのです。

 このように、人工的につくった雪の結晶と天然の雪の結晶では、すこしだけですができるときのようすがちがいます。これが、結晶の手の長さや形のちがいを生みだしているのです。中谷宇吉郎先生が世界で初めて人工的に雪の結晶を作ることに成功してから、すでに80年以上になります。しかしそれでも、雪の結晶が成長するしくみや形が決まるしくみには、まだ明らかになっていないたくさんの謎が残されています。これからも、雪の結晶に興味を持っていてくださいね。

(回答掲載日:2021年8月31日)

#人工雪#結晶の不思議#雪の不思議
Q26

雪を踏むと出る音

雪を踏むと出る音がちがうのはなぜですか?(ユーミンさん / 福井県・8歳)

 積もった雪を踏むと、いろいろな音がでますね。ふんわりと積もった降ったばかりの雪ではあまり音は出ないですが、積もってから時間がたって“ざらめ”のようになった雪ではザクザクとした音がでます。また、気温がとても低くてこまかな雪の粒がかたく積もっているときには、キュッキュッというかなり高い音が出たりします。このような音は、積もった雪の粒と粒がこすりあってでると考えられ、こすれあう雪の粒の大きさやかたさなどによって、出てくる音もさまざまに変わります。

 まず、ざくざくという音は、かなり大きくて硬いつぶつぶでできた雪のときにでることが多いでしょう。砂浜の海岸を歩くとき、砂がかわいているとけっこう大きなザクザク音がしますが、砂がぬれているときにはあまり音がしないですね。乾いた砂では砂粒と砂粒がこすれあって音が出ますが、ぬれた砂では砂粒の表面にある水のために砂粒が滑りやすくなっていて、音が出にくくなるからです。じつは、雪の粒でも同じようなことがおこります。ザクザク音も気温が高くて雪粒がすこし溶けているとあまり音が出ませんが、寒くなって雪粒の表面まで完全に凍っていると音が出やすくなります。

 また、気温がもっと低いときには、積もった雪の粒も小さくなり、雪粒の表面も完全に乾いているので、雪粒と雪粒がこすれて、キュッキュッというすこし高い音がでます。台所にある小麦粉の袋を外側から押すと、キュッキュッという音が聞こえることがあります。これも小さな小麦粉の粒どうしがこすれあってでてくる音で、雪の音と同じしくみですね。

 ユーミンさんは福井県にお住まいですね。こんどの冬に雪が積もったら、気温や雪のようすが変わると、じっさいにどんな音がでてくるのかを聞きわけてみてください。

(回答掲載日:2021年8月31日)

その他の現象 #雪と音#雪の不思議#雪質
Q25

家の冷凍庫でシャボン玉を凍らせて結晶を見る方法

中谷宇吉郎さんに憧れて、結晶について調べています。 シャボン玉を凍らせて結晶ができる映像がとても綺麗で自分の目で見たいと思ったのですが、今年もコロナの影響で雪の科学館に行けません。 家の冷凍庫で作ってみようと思ったのですが上手くできません。 冷やしたステンレスのトレイにシャボン玉を膨らませ、マイナス18℃の家の冷凍庫に入れました。シャボン玉が凍る前にシャボン玉が割れてしまいます。 割れにくいシャボン玉(砂糖シロップ入)を作って凍らせましたが、やはり冷凍庫に入れると割れてしまいます。色々シャボン玉の液体を試したのですが全滅です。 家の冷凍庫では、シャボン玉を凍らせて結晶を見る事はできませんか? 家で綺麗な結晶を作って観察してみたいのです。 観察できる方法のヒントをください。(氷博士になりたいにゃーこさん / 栃木県・12歳)

 シャボン玉の膜を凍らせるときれいな氷の結晶ができていく様子を観察することができますね。簡単にできそうですが、じっさいにやってみると、なかなかうまくいきません。じつは、単に普通にシャボン玉を作るだけではなく、いくつかの工夫がされています。

 まず、シャボン膜を作る方法ですが、シャボン玉の膜は球形ですので、少し工夫をして平らな膜を作ります。この平らな膜は、直径1ミリくらいの針金で丸い枠(直径10センチくらい)を作り、その枠にシャボン膜を張ることで作ることができます。シャボン膜を作る液体は、水に普通の家庭用の食器洗い洗剤をまぜるだけで構いません。この液を平たいお皿に入れて、その中に針金の枠をつけてゆっくり引き上げると、枠の内側に平らなシャボン膜を作ることができます。入れる洗剤の量を変えて、シャボン膜を一番作りやすい洗剤の量を決めてください。

 こうして作ったシャボン膜を、割らないように注意して冷凍庫の中にそっと入れると、膜の中に氷の結晶ができるはずです。しかし、このままではシャボン膜はあっという間に凍ってしまって、結晶のできる様子を見るのはちょっと難しいと思います。そこで、もう一つの工夫が必要になります。それは、洗剤を溶かした水の中に、さらに砂糖を入れてよく溶かします。溶かした砂糖は、水が凍る速さをおさえる作用があります。このため、砂糖の量を増やしていくと、だんだん凍る速さが遅くなり、やがてシャボン膜の中できれいな氷の結晶がゆっくりとできていく様子を観察できるようになります。砂糖の量をいろいろ変えてみて、結晶が一番キレイに見える量を決めてください。

 洗剤の量と砂糖の量をいろいろと変えてみて、結晶のでき方や結晶の大きくなる速さなどの違いを観察してみるのも楽しいですね。また、砂糖ではなくて塩を入れたらどうなるかなど、水に溶かすもので何か違いがでてくるかなども興味深いですね。頑張って、実験を行ってみてください。

(回答掲載日:2021年8月31日)

その他の現象 #実験#結晶の不思議
Q24

水から出て来る泡は何ですか?

お湯がわくとどうして泡がでるのでしょうか? 泡は空気なのですか?(yuyuさん / 福井県・10歳)

 水から出てくる泡は、小さなつぶつぶの泡がゆっくり出てきたり、おどるように泡がつぎつぎと出てきたりと、いろいろな場合がありますね。さらに、その泡が何でできているかについても、それぞれでちがいます。いくつかの場合について、見てみましょう。

 まず、コップの中に水道の水を入れてみましょう。このコップを別の容器に入れたお湯の中につけて、コップの水を暖めるとコップの内側に気泡ができるのが見えると思います。この気泡は、水に溶けていた空気が泡になって現れたもので、泡の中身はほとんどが空気で、少しだけ水蒸気(すいじょうき)(水が蒸発したもの)が含まれています。水を冷凍庫に入れて凍らせると氷ができますが、この氷の中にはやはり空気でできた泡がたくさんはいっていますね。コップで出来た泡と同じものです。

 いっぽう、やかんなどに水を入れてコンロにかけ、いっきに温度を上げるとお湯がわきます。このとき、やかんのなかではつぎつぎと泡がでてきて、おどるように動いています。これは、やかんの水が100℃になっていて、すこしむずかしいですが「沸騰(ふっとう)」というものです。沸騰している水のなかにできる泡は、水蒸気でできていて、空気の成分はほとんどはいっていません。

 また、炭酸の入ったペットボトルの飲み物のフタを開けると、飲み物の中に小さな泡がたくさんできるのが見えますね。この泡は、飲み物に含まれていた炭酸ガス(二酸化炭素とも言います)が泡になってでてきたものです。ですので、このときの泡の中には、空気ははいっていません。

 このように、水の中の泡と言っても、そのでき方によって、空気の泡であったり、水蒸気の泡であったり、あるいは炭酸ガスの泡であったりするのですね。この他にも、いろいろな泡がありますが、そのでき方や何でできているかなどを調べてみるのも楽しいと思います。

(回答掲載日:2021年8月31日)

#水の不思議
Q23

どうして水は0℃以下で氷になるのですか?

れいぞうこでできるような「氷」のことをしらべています。ひゃっかじてんでは、「氷 水がこおって固体になったもの。ふつうは、0℃以下でこおりになる。」とかいてありました。1.どうして水は、0℃以下になると氷になってしまうのですか? 2.ぴったり0℃でも氷になれるのですか? よろしくおねがいします。( すずき あやなさん / 福岡県・7歳 )

 氷は、水が凍って固体になったものと言っても、なんだかよくわからないですね。すこし難しいお話になりますが、説明しましょう。

 まず、水や氷は、“水分子”と呼ばれるとても小さな粒が集まってできています。コップに入れた水は、たくさんの水分子がぐちゃぐちゃになって詰め込まれていると思ってください。温度が0℃より高いときには、コップの中の水分子は、自由に動き回ることができます。このため、コップを斜めにすると水は流れ出してしまいます。しかし、温度が下がってくると水分子はだんだん動きにくくなり、やがて0℃になると、もう動き回ることができなくなってしまいます。こうなると水は、かたまりの氷に変わってしまい、コップから流れ出すこともできなくなります。

 氷の中の水分子の様子をもう少し説明しましょう。実は、氷の中では水分子のようすとはとても異なっていて、水の中のぐちゃぐちゃではなく、とても規則正しく並んでいます。このように分子が規則正しく並んでいるものを、「結晶」と呼びます。氷は、水が凍ってできた結晶なのですね。

 少し難しいと思いますので、ジグソーパズルを思い出してください。ジグソーパズルのピースを水分子だと思うと、ジグソーパズルを始める前はピースがぐちゃぐちゃの山になっていて、簡単にかき混ぜることができます。これが、“水”のなかの水分子のようすです。そして、ピースをきれいに並べて、ジグソーパネルを完成させると、ピースはもう自由に動けなくなります。これが、“氷”と言うことになります。こうすると、水と氷の中での水分子の様子が少しわかりやすいですね。おうちのジグソーパズルで確かめてみてください。

 また、「水が凍って氷に変わる温度は0℃」とよく言いますね。しかし、私たちが温度を測るときにどうするかを考えてみましょう。温度を測るためには、どこかに基準となる温度を決めておかないといけません。この基準の温度として、私たちは“水が氷に変わる温度”を0℃と決めているのです。水は、私たちの身の回りにある、もっとも大切なものです。このため、水が氷に変わる温度をもっとも大事な基準の温度として、0℃としたのです。

 また、ぴったり0℃でも氷になれるのかは、そのとおりです。しかし、水をゆっくり冷やしていくと、実際には0℃以下になっても氷にならずに、水のままでいることもあります。これは、最初に水が凍り始めるときの、氷のできかたによリます。少し難しい言葉ですが、0℃以下でも凍っていない水を、“過冷却水”と呼びます。雪の科学館では、実際に過冷却水を作って、この水が凍る様子を実演しています。科学館に来る機会がありましたら、ぜひ実演に参加してください。科学館の公式YouTubeチャンネルにもその様子を紹介しています。

 

  ▶ YouTube 動画 

〈過冷却水のせつめいは 6分30秒からはじまります〉

 

(*漢字のふりがなつき回答はこちら)

 

(回答掲載日:2021年8月5日)

#水の不思議#氷の不思議#温度
Q22

4℃のナゾ

水は4℃で体積が最小になると過去に習いましたが、なぜ4℃なのでしょうか。不思議なので知りたいです。よろしくお願いします。(かしわさん / 岐阜県・31歳)

 水は、他の物質にはない不思議な性質をたくさん持っています。ご質問にある体積が+4℃(厳密には、+3.98℃)で最小になる(言い換えると、密度が最大になる)というのもそのひとつです。この性質を持つ物質はとてもまれで、ほとんどすべての物質の液体は融点(結晶が融ける温度)の時に体積が最小で、温度が上がれば体積はだんだん大きくなっていきます。

 この不思議な性質は、水が凍って氷の結晶になると水に浮かぶということとも関連しています。氷の結晶というのは、水分子が三次元に規則正しく並んだ構造をもっています。このとき隣り合った水分子どうしは、水素原子を介して結合しています。この結合を水素結合と呼びます。すなわち、氷の結晶とは水素結合の三次元的な組み合わせで出来ているとも言えるのですが、これがけっこう隙間の多い構造を作るのです。このため、水中の水分子がバラバラに配置した状態にあるときよりも、氷の結晶中の水分子間隔のほうが大きくなっています。すなわち、液体の水の状態よりも、体積は氷のほうが大きくなる(密度が小さくなる)ことになります。

 では、本題に戻りましょう。氷が溶けると液体の水に戻りますが、まだ0℃に近い温度では水の中の分子がすべてバラバラになっているわけではありません。すなわち、隣接する水分子どうしで水素結合を作っているものが、ごく一部ですが残っています。このような水分子のかたまりは、「クラスター」と呼ばれます。このクラスターは、発生してもすぐに壊れてしまうのですが、水中のあちこちで発生していますので、全体として、常に一定の割合の水分子がクラスターになっています。この効果は、水全体の体積を増加させる(密度を減少させる)ことになりますが、温度が上昇するとクラスターも発生しにくくなりこの効果は弱まります。一方、さらに温度が上昇すると、水分子はより活発に動き回るようになりますので、分子間隔はだんだん拡大し、水全体の体積を増加させる(密度を減少させる)効果が働きます。この2つの効果が相殺するのがちょうど4℃という温度になります。このため、この温度で水の体積は最小(密度は最大)となるのです。(図を参照して下さい。)

 他の多くの物質でも、それを溶かした液体の中では、水中と同じことが起きています。しかし、物質の固体(結晶)は、それが溶けた液体よりも体積が小さい(密度が大きい)のが普通ですので、融点の時に液体の体積が最小で温度が上昇すると体積は一方的に増えていきます。したがって、氷のこの性質はとても奇妙なのですが、シリコンなどごく一部の物質では同じ性質があることが知られています。これらの物質の結晶は、実は氷と同じような隙間の多い構造をとることも明らかになっています。

 

*「クラスター」という言葉は、コロナの蔓延が始まってから誰もが知るものになりましたが、もともとは「なにかの集団」という意味で、さまざまな分野で使われています。

 

(回答掲載日:2021年7月12日)

#水の不思議#温度
Q21

雪結晶の大きさについて

天然で観察された雪結晶の最大の大きさはどの位ですか。また、人工雪ではどの位まで大きいものがつくれますか。大きさをきめるものは何ですか。(ゆきんこさん / 新潟県)

 手のひらにのるような大きな雪結晶が空から降ってきたら楽しいですね。しかし、私たちの地球上ではこんな大きな結晶は、残念ながら降ってきません。天然で見られる最も典型的な樹枝状結晶でも多くは直径2〜3ミリで、最大でも7〜8ミリ程度の大きさです。私も何度も北海道の大雪山で雪結晶の観察を行いましたが、やはりこのサイズより大きいものは見たことがありません。そのほかのさまざまな形の雪結晶は、これよりもずっと小さいのが普通です。

 この結晶の大きさは、どのようにして決まるのでしょうか?雪結晶は、上空の雲の中で生まれた小さな氷晶(大きさは1/100ミリ以下)が、そのまま落下しながら周囲の水蒸気を集めて大きくなる(成長する)ことで生成されます。したがって、地上で観察される結晶の大きさは、結晶が大きくなる速度(成長速度)と成長にかかった時間(氷晶の誕生から地上に達するまでの時間)との積算で決まります。成長速度は、結晶周囲の温度や水蒸気量、さらには結晶の特性などさまざまな条件で変化します。また、成長時間は、氷晶が誕生してから雪の結晶として地上に達するまでの時間とすると、せいぜい1時間程度と推測されます。これらから結晶の大きさを推定すると、成長速度がもっとも大きい樹枝状結晶でも、最大で直径10ミリ程度までが限界です。

 では、人工の雪結晶ではどうでしょうか?この場合も、成長速度と成長時間の関係で大きさが決まるのは同じです。したがって、天然の結晶よりも長い時間成長させることができれば、もっと大きな結晶を作ることは不可能ではありません。もし国際宇宙ステーションの内部で実現される無重力の環境で、結晶を長時間空中に浮かべたままで成長させることができたならば、原理的にはいくらでも大きな結晶を作ることができます。しかし、そのためには、巨大な成長装置を用意するなど別な制約が加わりますので、実現するのは簡単ではありません。

 一方、雪結晶と同じように水蒸気から成長する霜の結晶では、もっと大きいものがしばしば目撃されます。たとえば、冷凍食品を保存するような冷凍倉庫の中では、手のひらの大きさにもなる霜の結晶が成長することがあります。霜の結晶の成長速度は小さいのですが、落下しないので何週間、あるいは何ヶ月もの長いあいだ成長を継続できます。こうすると、多少成長速度が遅くても巨大な結晶が生成できるのです。

【樹枝状結晶】 撮影:古川 義純

(回答掲載日:2021年5月15日)

#人工雪#自然現象#雪の不思議
Q20

カラフルな氷は作れますか?

娘が氷に色をつけたいと言い、絵の具や食紅を入れて凍らせてみましたが綺麗にできませんでした。成功する方法はあるのでしょうか。(山崎景子さん / 東京都・43歳)

 氷にカラフルな色を付けることができたら、楽しいですね。しかし、残念ながら氷そのものに色を付けることはできません。それは、氷は水分子が立体的に規則正しく並ぶことでできた結晶で、この結晶の内部には絵の具や食紅などの成分は入ることができないからです。結晶の中に入るには、規則正しく並んだ水分子を無理やり押しのけないといけません。これはとても困難なことで、空気中の酸素や窒素などの分子でも、結晶の中には入り込むことができません(本Q&AのQ4Q14の回答も参照して下さい)。このため、水に絵の具や食紅を入れて凍らせても、氷ができるときに氷の外に押し出されてしまい、氷には色がつかないのです。

 しかし、凍った食品であるシャーベットやアイスクリームなどには、きれいな色がついているものがありますね。これらは、いろいろな工夫をして含まれている氷ができるだけ小さな粒になるようにしているのです。氷の粒(一つの氷の結晶)の中身にはもちろん色を付けるものは入っていません。しかし、氷の粒の表面や粒と粒とのすき間などには、これらのものを貯めておくことはできます。この原理を使うと、できるだけ氷の粒を小さくすることで、食品全体として色をつけることができるのです。

 家庭でも、アイスクリームやシャーベットは作ることができますね。このときのコツは、原料を冷やしながらよくかき混ぜることだと思います。かき混ぜることで、水分が凍るときに、氷の粒があまり大きくなる前に細かく砕かれてしまったり、たくさんの氷の粒が新たに作られたりします。「できるだけ氷の粒を小さく保ちながら、全体を凍らせる」ということが、全体として色をつけることに結びつくのです。繰り返しになりますが、あくまで氷の粒(すなわち、結晶)そのものには色はついていないことに、注意してください。

(回答掲載日:2021年3月30日)

生活・文化 #実験#氷のつくりかた#氷の不思議
Q19

雪が青や緑に見える条件について

大雪が降った日に雪が青く見えました。とても不思議に思って雪の表面や中心部、地面近くなどの温度やその雪の状態を記録しました。その時の雪の表面の温度(青く見えた部分)は-23度でした。 そして2回目の雪が青く見えて多く雪が降った日にも記録しました。温度は-5度と1回目の記録と比べてみて降り積もった雪の温度は雪が青く見える理由とあまり関係がなかったと言うことがわかりました。2回目の大雪の記録をつける時に固めた雪と固めていない雪とで青く見えるのかということを比べてみました。すると固めた雪は緑色に見えました。同じ場所でも湿度などの条件を揃えられていなかったので結果が正しいのか分かりませんが、雪の密度が関係しているではないかと思いました。 雪は本来色がついておらず透明で光の反射や吸収により青い光を反射すると言う事は分かるのですがなぜ青く見えるのか、その条件は何なのかと言う事を知りたいです。(Machiさん / 富山県・11歳)

 雪といえば真っ白なイメージですが、それが青く(時には、緑色に?)見えることがあるというのは、不思議ですね。質問の中にある「雪は本来色がついておらず透明で光の反射や吸収により青い光を反射する」というのを、もう少し詳しく説明しましょう。

 雪が青く見えるという場所は、太陽の光が直接あたっている積雪の表面ではなく、積雪の断面にあいたくぼみのような少し影になった場所だと思います。実際、このくぼみの内側から外の光を透かすように見たときに、青みがかかって見えることが多いはずです。すなわち、この青い光は、積雪の中を透過してきた光を見た場合にしか見えません。

 さて、積雪は細かな氷の粒の集まりでできています。はじめに、氷を太陽の光(白色光)が透過するときに、光の強さがどう変わるかを見てみましょう。太陽からの光をガラスのプリズムで屈折させると、赤い光から紫の光まで7色に別れますね。光は波の性質を持っていますので、この色の違いは光の波長に対応しています。氷は無色透明と言いますが、実際には完全に透明ではなく、入射した光はごくわずかですが氷に吸収されます。この光が吸収される割合が、光の波長(すなわち、光の色)によって異なります。実際は、赤い(波長の長い)光のほうが青い(波長の短い)光よりも、吸収されやすいという特性があります。すなわち、氷の中を通過する太陽光(白色)は、赤い光がより早く弱くなることになり、割合として青い光のほうが強くなります。このため、青みがかかるのです。最初に述べたように、積雪も氷の粒でできていますから、光が積雪を通過するときにも、この性質が現れてきます。積雪のくぼみから外を透かして見る場合しか青く見えないのも、理由がわかりますね。

 これと同じ現象は、氷の塊でできた氷河や南極の氷山などでも見ることができます。この場合は、まさに氷の塊の中を光が通過しますので、青い光の成分の割合より多くなり、積雪の場合よりもっと青みがかかって見えることがあります。また、水中が青く見えるというのも同じ原理です。イタリアのカプリ島には、「青の洞窟」という有名な場所があります。ここは、海岸の切り立った崖の波打ち際にできた洞窟で、その内部に海水が流れ込んでいます。この洞窟の中に入ると海水が真っ青に輝くことで、この名前がついています。これは、太陽光が海水を通過して洞窟の入口から内部に差し込むときに、赤い光の成分が海水に吸収されやすいためにおきる現象です。氷と海水の違いはありますが、どちらも同じ原理で青く見えているのです。

 最後に、積雪が青く見える条件ですが、氷を通過する光の吸収は特に温度による大きな変化はありません。また、積雪の密度が高いと光の散乱(散乱は氷の表面での反射が主な原因で、青く見えることと直接は関係ありません)のため、通過してくる光の強さは素早く減少します。しかし、一方で密度が高いと、氷の粒の中を通過する長さは増えるはずで、より青みがかかることになります。両方の効果が複雑に関係しますので、その条件を明確に述べることは困難です。

(回答掲載日:2021年3月30日)

その他の現象 #光#雪の不思議#雪の色
Q18

雲が凍らない理由

上空は寒いのに、雲が凍らないのはなぜですか?また、雲が空に浮かんでいられるのはなぜですか?教えてください。(Kitutukiさん / 岐阜県・13歳)

 雲は、小さな水滴(雲粒)がたくさん集まってできています。雲粒の大きさは、直径で3〜10μm(すなわち、0.003〜0.01mm)程度でとても小さいものです。上空に行くと気温は下がり、やがて0℃より低くなります。雲粒は小さいとは言っても水でできていますから、このような温度になると凍ってしまってもおかしくないですね。

 実際には、気温が0℃以下であっても、雲粒は凍らずに水滴のままでいることができます。これは、水のもつ「過冷却」という性質によります。中谷宇吉郎雪の科学館では、ペットボトルに入れた水を冷凍庫で−5℃程度まで冷やしても、凍らずに液体のままでいることを示す実験を毎日行っています。この実験で作っている水が「過冷却水」と呼ばれるものです。この過冷却水は、ペットボトルを叩いたり、振ったりすると、簡単に過冷却の状態が破れて凍ってしまいます。それは、ペットボトルに与えた振動が氷を作るきっかけになるためです。また、振動がなくても、水の中に含まれているゴミやペットボトルの容器についた傷などがきっかけになって、やがて凍ってしまいます。

 しかし、雲粒の場合は、非常に小さいのでその内部にはゴミなどが入っていることはあまりありません。また、空気中に浮かんでいるので、容器の傷などの影響もありません。このため、ペットボトルで作る過冷却水より、もっと低い温度まで簡単に過冷却してしまいます。条件が良いときには、雲粒は−40℃程度まで凍らずに、液体の状態でいることができます。雲は、驚くほど低温になっても、凍らずにいることができるのですね。

 最後に、雲が空に浮かんでいられる理由ですが、雲を作る雲粒が非常に小さいことに関係しています。雲粒は、小さいとは言っても、もちろん地上に向かってゆっくり落下していきます。しかし、雲ができるときには、大気が上に向かって上昇していることが多いので、小さな雲粒も大気の流れに沿って上昇していきます。このバランスが取れているため、雲は空に浮かんでいることができるのです。

(回答掲載日:2021年3月30日)

その他の現象 #雲#過冷却水#水の不思議
Q17

雪は食べちゃダメですか?

雪はおいしそうなのに、お母さんは食べたらダメだといいます。 なぜ雪は食べてはいけないのですか?(カオリさん / 石川県・6歳)

 ふったばかりの雪は、まっしろでふわふわしていて、食べたらおいしそうですね。雪とおなじようなかきごおりは、食べてもへいきなのに、雪は食べてはいけないのはちょっとふしぎですね。でも、お母さんのいっていることは、正しいです。

 それは、そらからふってきた雪は、くうきのなかにうかんでいる小さなゴミなどをたくさんくっつけているからです。もしこんど雪がつもったら、きれいなコップに雪をつめて、とかしてみてください。そのとけた水をよく見ると、小さなゴミがうかんでいるのが見えるはずです。ゴミが見えなくても、水にとけてしまうものがはいっているかもしれません。ですので、そらからふってきた雪は、あまりきれいとはいえません。お母さんがいうとおり、食べてはいけません。

 さいしょにおはなしをしたかきごおりは、きれいな水をれいとうこでこおらせてできたこおりをけずってつくります。雪とちがって、かきごおりにはゴミははいっていませんので、おいしく食べることができるのです。でも、食べすぎておなかをこわさないようにしてくださいね。

(回答掲載日:2021年3月23日)

#雪の不思議
Q16

雪と氷のちがい

雪と氷の違いは何ですか? 細かい氷が雪と呼ばれるのですか?( ジェットストリームさん/石川県 )

 まず、雪も氷もH2O(1個の酸素原子(O)と2個の水素原子(H))という物質の固体(結晶)であるということから説明を始めましょう。H2Oに限らず、様々な物質は、温度と圧力によって液体であったり固体であったり、そして気体であったりします。この、温度と圧力の条件で、物質がどの状態を取るかを示す図は「相図」と呼ばれて、科学研究の場ではきわめて重要なものです。H2Oの3つの相( 3態とも呼びます)については、それぞれ「水」、「氷」、および「水蒸気」と特別な呼び方で呼ばれます。すなわち、H2Oという物質の固体としては、それがどのようにして出来たか(水が凍ってできたのか、水蒸気が凝華(注)してできたのか)や形状(かたまりなのか、細かな粒状なのか)とは全く関連なく、常に「氷」と呼ばれます。したがって、物質として見た場合は、「氷」という呼び方がより上位の言葉と言えます。

 しかし、最初に述べたように、実際には雪と氷は並列に記載されることも多く、時には混乱を招いていることも事実です。ご質問にあるように、細かい氷が「雪」ということもできますが、氷を削って作ったかき氷は、細かな粒の氷であっても雪とは呼びません。 

一般には、そのできかたによって区別していることが多いように思われます。すなわち、水蒸気からできた氷の結晶を「雪」、液体の水が凍ってできた氷の結晶はそのまま「氷」と呼んでいます。雪が降って積もったものは「積雪」と呼び、やはり雪の一種ということになります。

ただ、この区別にも例外がないわけではありません。たとえば、南極やグリーンランドなどで見られる巨大な氷の塊である氷床は、表面に降り積もった積雪がだんだん深くなると、自重で圧縮されて氷に変わります。これは、積雪が圧縮される過程で、その内部でまだ空気の流通(通気性)がある場合は「積雪」と呼び、さらに圧縮されて空気の流通がなくなると「氷」に変わるというように分けられます。すなわち、もともとは水蒸気からできた雪であっても、積雪になって圧縮されると「氷」に変わるということになります。

 このように、雪と氷の違いを明確に分けようとすると、それには当てはまらないものが出てきてしまいます。雪と氷、もともとは同じものですので、これは仕方がないことかもしれませんね。

 

 

(注)逆に、氷が直接水蒸気に変わる場合は「昇華」と言います。水蒸気から氷が生成する場合も、従来は同じ言葉が使われていました。しかし、混乱を避けるために、近年この言葉が提案され徐々に使われるようになっています。

(回答掲載日:2021年3月6日)

#氷の不思議#雪と氷の違い#雪の不思議
Q15

氷のすき間について

はじめまして。 小学校で4年生を教えています。 氷になると液体の水より体積が大きくなると学習します。その理由は氷ができる時にすき間ができるとのことですが、ふと疑問に思いました。 そのすき間は水にとけている空気なのか、それとも真空なのでしょうか。 氷の結晶構造のすき間の中に酸素や窒素の分子が入り込める余地はあるのでしょうか。(くすもとさん/大阪府・43歳)

 コップに入れた水を冷凍庫に入れて凍らせると、体積が約9%増加します。水も氷も多数の水分子が集合してできていますが、このことは水中より氷の中の方が水分子の詰り方がほんの少し疎らであることを意味しています。液体の水では、水分子は不規則に混じり合っています。これに対し、結晶である氷では、水分子は三次元的に規則正しく配列しています。下に示した図は、氷の結晶中での水分子の配列を示しています(産業技術総合研究所 灘浩樹先生提供)。水分子はH2Oですので、灰色の大きな球が酸素原子(O)、赤の小さな球が水素原子(H)を示しています。1個の酸素原子は、隣り合った4個の酸素分子と水素結合で結ばれていて、この結合の上に水素原子が1個ずつ配置されています。液体の水が凍って、このような結晶構造を作るときに、水分子が少しずつすき間を開けながら配列を作るので体積が増えるのです。

 とはいっても、このすき間はせいぜい水分子の大きさですから、ここに窒素や酸素などの他の分子が入り込むことはできません。最初に述べたように、コップに入れた水を冷凍庫で凍らせると、透明な氷ではなく真っ白な氷になってしまうことが多いですね。水中に溶けていた窒素や酸素の分子は、水が凍っても氷の内部には入れないので、気体として現れるしかありません。このとき生じた気体の泡(気泡)は、氷が成長するときに氷の中に取り込まれてしまいます。すると、この気泡に当たった光が散乱を起こし、氷は透明ではなく白く見えるのです。

 

 ところで、気泡を含んだ氷にどんどん圧力をかけていくとどうなるでしょう。気泡は、圧力とともにだんだん小さくなり、やがて氷の中から消えてしまいます。このとき、気泡の中の窒素や酸素はどうなってしまったのでしょうか。実は、氷の結晶の格子の中に取り込まれてしまっているのです。先程の話と矛盾しているようですが、圧力が高くなると水分子の配列そのものが変化して、無理やりすき間を作り、窒素や酸素の分子を取り込むことができるようになるのです。この特別な氷はエアハイドレート結晶と呼ばれ、実際に南極大陸を覆う氷床の深部で発見されます。氷床は、何十万年もの間に降り積もった雪が積み重なってできた、厚さが最大4キロにも及ぶ氷の塊です。このため、その深部では氷にものすごい圧力がかかっているので、気泡がエアハイドレート結晶に変化したのです。氷床は、深くなるほど古い空気を貯め込んでいます。まさに、”空気の化石”ですね。

(回答掲載日:2021年3月6日)

#氷の不思議
Q14

最新の研究について

現在行われている、雪結晶についての面白い研究はありますか?古川館長が特に気になっているものがあれば教えてください。(Kentoさん / 富山県)

 私は、雪の結晶だけではなく氷(雪の結晶も氷のひとつ)のさまざまな特性に興味があります。その意味では、特に雪の結晶の問題だけに焦点を絞るのは難しいのですが、その中でも興味深い研究を二つ紹介したいと思います。

 最初は、氷の結晶の表面構造を分子のレベルで解明しようという試みです。この研究は、北海道大学低温科学研究所の佐﨑元(さざきげん)先生を中心とするグループが行っています。氷の結晶は、大気中から飛び込んでくる水分子が一個一個順番に氷の結晶の格子に取り込まれることで成長します。このとき、氷の結晶の表面ではどんな事が起きているのかを、佐﨑先生たちは分子のレベルで顕微鏡観察するという試みを行っています。このような観察は非常に難しく、これまで世界中の誰もが成功していなかったものですが、佐﨑先生たちは新しい顕微鏡を独自に開発することで、初めて観察を可能にしました。これによって、結晶が成長するしくみを議論することや、表面で起きるさまざまな興味深い現象の本質を明らかにすることができるようになります。この研究は、雪の結晶を直接扱っているわけではありませんが、結晶の成長のしくみが分子レベルで明らかになると、雪の結晶の生成や形の変化のしくみも詳しく解明できるようになると、世界中の研究者から期待を集めています。

 もう一つは、新しく開発した人工雪成長装置で雪の結晶の成長実験を行っている北海道教育大学の高橋庸哉たかはしつねや)先生の研究です。高橋先生は、垂直風洞と呼ばれる装置を作り、この中で雪の結晶を1個だけ空中に浮かせながら、成長させるという実験を行っています。人工雪の成長装置といえば、中谷宇吉郎先生の実験装置が有名です。この装置は対流型といって、水蒸気を含む空気が対流によって流れてくる中で雪の結晶を成長させています。したがって、中谷先生の作った人工雪は、対流による空気の流れに逆らうように成長しますので、結晶の形には少しゆがみが生じます。一方、1960年頃にイギリスの研究者たちが新たに開発した拡散型人工雪成長装置では、対流ではなく拡散によって水蒸気が流れるのを利用しています。この装置では、空気そのものに流れがありませんので、水蒸気の供給に偏りができにくく、比較的対称性の良い形となります。しかし、これらの装置では、雪の結晶は細い糸の上などに固定されて成長します。したがって、天然の結晶のように空中に浮遊して成長する結晶とは、結晶形の決まる条件などが異なる可能性があります。高橋先生の実験では、雪の結晶を空中に浮かべて成長させますので、天然の結晶の成長を完全に再現することができます。この実験は低温実験室で行うもので大変過酷な実験ですが、この研究が完成すれば、結晶の形に対する空気の流れの効果などが詳細に解明されるはずです。

 このような研究が進展することで、中谷先生の雪の研究が現代の最先端研究の中でも生かされることになります。中谷先生も大喜びされるのではないでしょうか。

(回答掲載日:2020年12月25日)

#実験#研究
Q13

とけない氷はあるのかな?

前に、雪の科学館で氷のペンダントを作りました。すぐにとけてしまい、悲しかったです。とけない氷があったら作りたいです。とけない、とけにくい氷の作り方をおしえてください。(あやかさん / 石川県・8歳)

 あやかさん、雪の科学館の氷のペンダント、すぐにとけてしまって残念でしたね。でも、とけない氷というのは、ざんねんながら作ることはできません。氷に限らずいろいろな物質は、とける温度が決まっています。氷は、この温度が0度ですので、部屋の中(室温は20度くらいですね)に氷をおいておくと、すぐにとけてしまうのはしかたがないことなのです。

 雪の科学館で氷のペンダントを作ったときの氷は、きれいな透明(とうめい)の氷だったと思います。台所にある冷凍庫(れいとうこ)で氷をつくると、普通(ふつう)は白くにごった氷になりますね。これは、最初に水にとけていた空気が、氷ができるときにはき出されて、空気の泡(気泡(きほう))として氷の中に閉じ込められたからです。気泡がたくさん含まれた氷は、とてもとけやすいのですが、気泡の入っていない透明な氷はとけるのに少し時間がかかります。室温であればやがてとけてしまうことにはちがいないのですが、雪の科学館の氷は、それでも少しはとけにくい氷になっています。このような透明な氷は、台所の冷凍庫でも少しくふうをすると作ることができます。まず、水にとけた空気を追い出すためには、冷やす前にいちど沸騰(ふっとう)させます。この水が冷めたら冷凍庫に入れるのですが、なるべく空気にふれないようにして、できるだけゆっくりと冷やしてこおらせると、気泡の少ない透明な氷になります。ためしてみて下さい。

(回答掲載日:2020年12月14日)

#単結晶#実験#氷の不思議
Q12

雪や氷の文化的な意味

北国には、雪や氷に関する伝統行事がたくさんあります。たとえば、諏訪湖の御神渡りや花巻のタロシ滝の計測などなど。金沢では氷室の仕込みが復活されています。でも、最近は温暖化のせいでこうした伝統行事がなくなりつつあります。自然現象が起きないことで、文化や伝統が消えてしまうのでしょうか?消えることでどんな影響があるのでしょうか?(ふくむら よしみさん / 茨城県・49歳)

 雪や氷に関する伝統行事が、地球温暖化のためになくなりつつあることは、大変残念なことです。伝統行事は、本来その土地の自然や気候、さらにそこに住む人々の生活様式などによって生まれて発展し、そして長年に渡って継続されることで生まれてきたものであると思います。このため、本来備えていた条件が変化してしまうと、その行事を実施していくことの意義や目的が薄れていくことになります。特に、雪や氷に関する伝統行事は、温暖化により雪や氷が少なくなったり無くなったりすると、行事そのものを実施することが困難となり、だんだん消えていく方向になるのはある程度はしかたがないかと思います。しかし、伝統行事が一旦消えてしまうと、後世になって復活再現することは極めて困難になります。したがって、これらの伝統行事の記録や保存などの活動が極めて重要になります。伝統や文化は、人々がどのような生き方をしてきたかの記録でもありますので、だれもが意識を高くして、消えてしまうことがないように努めていきたいですね。

 文化や伝統が消えてしまうということは大変残念なことですが、その一方で現代に生きる私達は、いま新たに多くの文化や伝統を作り出しつつあるといっても良いかと思います。最初はごく限られた人たちが行っていることであっても、やがて社会に浸透し、誰もが行うような行事として発展するものがあれば、新たに文化や伝統を作り出したことになります。百年後二百年後には、その時の伝統行事として継続されているかもしれません。すなわち、伝統や文化というのは、廃れるものもあれば新たに生まれるものもあります。ただ、古い文化や伝統を懐かしがるだけではなく、未来に向けて新しい文化や伝統を作っていくといこうという気持ちを持つことも、とても大切ではないでしょうか。

(ご質問ありがとうございます。伝統や文化に関する話題ですので、その人その人で考え方も対処のしかたも異なると思います。従いまして、この回答は私自身が個人的に考えていることにもとづいています。他にも、さまざまなご意見や考え方があると思います。)

(回答掲載日:2020年12月14日)

生活・文化 #文化#環境問題
Q11

植物は凍らない?

冬のとても寒い日でも椿などの花が咲いていたり草が生えていたりしますが、0度以下でも植物は凍らないのでしょうか?(なっちゃんさん / 石川県)

 生き物は、植物でも動物でも体が凍ると普通は死んでしまいますね。このため、寒い冬を凍らずに生き延びて、次の春にまた活動ができるように、生き物たちは特別なしくみを持っているのです。植物と動物では、そのしくみは異なりますので、まず植物について見てみましょう。

 植物が凍らないしくみのひとつは、冬になるとその体の中にたくさんの糖分やアルコール分などの成分を生成することです。水道水などのきれいな真水を冷やすと、通常は0度になると凍ってしまいます。しかし、水に糖分やアルコール分などが含まれていると、0度では凍らずに氷点下の温度になっても液体のままでいることができます。少し難しい言葉ですが、このことは「氷点降下(ひょうてんこうか)」と呼ばれていて、水に含まれる物質の濃度が高くなるほど、水が氷に変わる温度が低くなるという現象です。冷凍庫などに甘いジュースなどのペットボトルを入れておくと、真水のボトルよりも凍りにくくなりますが、これはジュースに大量に含まれる砂糖による氷点降下のためです。野外にいる植物も、冬が近づいてだんだん寒くなると、体内に糖分やアルコール分などを溜め込んで、この氷点降下のために体内の水が凍るのを防いでいるのです。実際、冬の寒さが厳しくなると野菜の甘さが増して、おいしくなると言われますね。これは、寒さに対抗するために、その体内に糖分を溜め込むためなのです。

 いっぽう、動物にも寒い冬を凍らずに越して、翌年また活動を再開するものがたくさんいます。人間と同じような哺乳類などは、自分で体温を調整する事ができます。しかし、魚や昆虫などの変温動物は自分では体温調節ができません。このような動物の体温は、周囲の環境の気温とほぼ同じになっていますので、冬になると氷点下まで下がります。それでも、多くの動物は凍ることなく、寒い冬を生き延びることができます。このような動物は、植物よりももっと複雑なしくみで体が凍ることを防いでいることが知られています。そのひとつは、動物の体内には不凍タンパク質と呼ばれる特別なタンパク質が含まれているからなのです。このタンパク質は、動物の体内での氷の生成を制御して、体が凍ることを防ぐという機能を持っているのです。おなじ動物でも、夏の間はこのタンパク質が含まれていないので、急に氷点下の温度にすると、体は凍ってしまうことが知られています。冬が近づくと、体内でこのタンパク質を生成して、寒さに備えた体に体質改善しているのですね。

 このように、氷点下の環境に住む生き物たちは、自分の体をいかにして凍らせないかという複雑なしくみを持っているのです。逆に、そのようなしくみを獲得した生き物だけが、冬の寒さの中でも生き残ることができたとも言えるでしょう。ここにも、生物の命のしくみが隠されているのですね。

(回答掲載日:2020年12月14日)

その他の現象 #植物#氷点降下#自然現象
Q10

氷の硬さ

マイナス10度とマイナス20度の氷は硬さが違いますか? 教えてください。(たかしさん / 石川県・10歳)

 中谷宇吉郎先生は、「氷は金属である」という言葉をのこしています。

 金属は、普通はとても硬いですが、温度が高くなるとだんだん柔らかくなります。テレビなどで刀を作るところを紹介した番組を見たことがあると思いますが、鉄を炎で真っ赤に焼いてそのままハンマーなどで叩くと、簡単に伸ばしたり曲げたりすることができます。これは、硬い鉄であっても温度が高くなると柔らかくなることを利用しているのです。氷もこの鉄と同じように、温度によって硬さが変化します。ご質問にあるようにマイナス10度とマイナス20度では、より温度の低いマイナス20度のほうが硬い氷になっています。

 しかし、氷の硬さというのは、鉄の硬さとは少し違う性質を持っています。氷は結晶ですので、一つの結晶の粒でできた氷(単結晶の氷と呼びます)を用意して力を加えると、どの方向から力を加えるかによって硬さが大きく違うことが知られています。実は、氷の結晶というのは、ちょうどたくさんの枚数の紙を重ねた束のような構造をしています。

 紙の束としてトランプを考えてみましょう。図にあるように、トランプを重ねた束にいろいろな方向から力を加えてみましょう。たとえば(a)図のように、トランプの束を水平に置き、トランプの上や横から力を加えると、束は簡単に曲がりますね。これは、トランプどうしが少しずつ滑って、束全体としては曲がりやすくなるためで、トランプの束はこの方向にはとても柔らかい性質をもつことになります。しかし、(b)図のように束を縦に置いて縦方向に力を加えると、いくら力を加えてもトランプの束は簡単には曲がりません。この場合には、いくら力を加えてもトランプどうしが滑ることがないからです。

 このように、トランプの束は力を加える方向で硬さがまったく違います。氷の結晶が、このトランプの束と同じ性質を持つことを発見したのも、中谷宇吉郎先生なのです。中谷宇吉郎雪の科学館には、氷の結晶が紙の束と同じような性質を持つことを示す実験結果の写真も展示されています。今度雪の科学館を訪問したときには、気をつけて探してみて下さい。

(トランプの実験は簡単ですので、ぜひ自分でもやってみて下さい。トランプは、プリンターの用紙の束や少し厚めの本などでも代用することができます。)

(回答掲載日:2020年12月14日)

#単結晶#実験#氷の不思議#温度