氷のすき間について

 コップに入れた水を冷凍庫に入れて凍らせると、体積が約9%増加します。水も氷も多数の水分子が集合してできていますが、このことは水中より氷の中の方が水分子の詰り方がほんの少し疎らであることを意味しています。液体の水では、水分子は不規則に混じり合っています。これに対し、結晶である氷では、水分子は三次元的に規則正しく配列しています。下に示した図は、氷の結晶中での水分子の配列を示しています(産業技術総合研究所 灘浩樹先生提供)。水分子はH2Oですので、灰色の大きな球が酸素原子(O)、赤の小さな球が水素原子(H)を示しています。1個の酸素原子は、隣り合った4個の酸素分子と水素結合で結ばれていて、この結合の上に水素原子が1個ずつ配置されています。液体の水が凍って、このような結晶構造を作るときに、水分子が少しずつすき間を開けながら配列を作るので体積が増えるのです。

 とはいっても、このすき間はせいぜい水分子の大きさですから、ここに窒素や酸素などの他の分子が入り込むことはできません。最初に述べたように、コップに入れた水を冷凍庫で凍らせると、透明な氷ではなく真っ白な氷になってしまうことが多いですね。水中に溶けていた窒素や酸素の分子は、水が凍っても氷の内部には入れないので、気体として現れるしかありません。このとき生じた気体の泡(気泡)は、氷が成長するときに氷の中に取り込まれてしまいます。すると、この気泡に当たった光が散乱を起こし、氷は透明ではなく白く見えるのです。

 

 ところで、気泡を含んだ氷にどんどん圧力をかけていくとどうなるでしょう。気泡は、圧力とともにだんだん小さくなり、やがて氷の中から消えてしまいます。このとき、気泡の中の窒素や酸素はどうなってしまったのでしょうか。実は、氷の結晶の格子の中に取り込まれてしまっているのです。先程の話と矛盾しているようですが、圧力が高くなると水分子の配列そのものが変化して、無理やりすき間を作り、窒素や酸素の分子を取り込むことができるようになるのです。この特別な氷はエアハイドレート結晶と呼ばれ、実際に南極大陸を覆う氷床の深部で発見されます。氷床は、何十万年もの間に降り積もった雪が積み重なってできた、厚さが最大4キロにも及ぶ氷の塊です。このため、その深部では氷にものすごい圧力がかかっているので、気泡がエアハイドレート結晶に変化したのです。氷床は、深くなるほど古い空気を貯め込んでいます。まさに、”空気の化石”ですね。

(回答掲載日:2021年3月6日)