衝撃による氷の形成
容器に水を入れて冷やすと、必ずしも0℃で氷に変わるわけではなく、それ以下の温度でも液体のままで存在します。この過冷却の状態にある水は、水中のどこかに目には見えないほどの小さな氷の粒(氷の核)が発生すると、それをきっかけとして水全体が凍結を開始します。過冷却の度合い(過冷却度)が大きいほど、この氷の核のサイズが小さくなるという性質がありますので、過冷却度が大きくなるほどその状態を保つのは難しくなります。
すなわち、過冷却水が凍ってしまうかどうかは、凍結のきっかけになる氷の核の出来やすさによって決まることになります。例えば、過冷却度は同じであっても、水中に小さなゴミなどがあると、それが氷の核の生成を助けます。また、過冷却水を入れている容器の表面に傷などがあると、やはり氷の核の生成を手助けします。すなわち、過冷却水を作りやすくするためには、ゴミを含まないきれいな水を使うことや傷などのない容器を選ぶことが鍵ということになります。
では、このことを踏まえて、ご質問にある過冷却水の入った容器に衝撃を与えるとどうなるかを考えてみましょう。一般に、過冷却水の入った容器に衝撃を与えても、それ自体が氷の核の生成に何らかの影響を与えるかどうかは、実は良くわかっていません。容器に水を入れる時に、容器の上部には必ず隙間ができます。このため、容器を振ったり叩いたりすると、中の水は大きく揺すられて流動します。このような水の動きは、氷の核の生成を促進すると予想されます。すなわち、必ずしも“衝撃”自体が凍り始めるきっかけになるとは言い切れません。例えば、容器に完全に水を詰め込んで隙間がないほど密封すると、外部から容器に衝撃を与えても、そう簡単には凍り始めることはありません。すなわち、隙間がないので衝撃が与えられても水が流動しにくいからです。実際、私達は、ロケットの弾道飛行を利用して、無重力状態での氷結晶の成長実験を行ったことがあります。このときは、容器に密封した水を冷却して過冷却状態を作ってから打ち上げるのですが、ロケット打ち上げの激しい振動でもそれが原因で水が凍結することはありませんでした。このことからも、必ずしも衝撃そのものが、過冷却水を凍らせる原因とはならないと推測できます。
(密閉した容器に水を入れた場合、衝撃による流動は起こりにくいですが、衝撃による密度波が氷の核の生成に影響を与える可能性はあります)
(回答掲載日:2023年5月15日)