三つ以上の構造をもつ結晶はあるのか

 雪の結晶の形の分類は、中谷宇吉郎による一般分類表が90年以上前に発表されて以来、多くの研究者が新たな分類表を発表してきました。質問にあるグローバル分類は、中谷の分類表に極地などの寒冷環境で観察される結晶形を加えたものです。しかし、日本列島付近のそれほど寒冷ではない環境で観察される雪の結晶は、中谷の分類表にすべて記載されています。そのため、我々が普段使う分類表としては、今もなおこれが十分に有効と言えます。

 

 分類表は、多くの結晶写真を網羅的に集めたものに基づいており、少なくとも誰かが一度は目にしたことのある結晶のみが記載されています。言い換えれば、分類表にない結晶の形は自然には存在しないと理解されます。したがって、分類表にない結晶形がもし存在したらという議論を始めると、分類表自体が意味をなさないものになってしまう恐れがあります

 

 この点を踏まえて、「樹枝付角板付六花のような三つ以上の(多層の)構造をもつ雪の結晶は存在するか」という質問に答えると、それは「存在しない」となります。雲の中の気温は上空ほど低いため、結晶がたどる気温履歴は低温からより高い温度への一方通行です。つまり、雪の結晶形は成長初期には低温で観察される結晶形であり、成長するにつれて、より温度の高い条件で出現する結晶形へと変化するはずで、その逆は極めて起こりにくいと言えます。これが、雪の結晶形として、極端に複雑なものが現れることを抑制していると考えられます。成長時間の問題も関連はあると思いますが、このことだけではより複雑な形が現れるという決定的な理由とはなりません。

 

 最後に雪の結晶形の分類は分類者がどのような基準でその分類を行なったかによって形の境界線が異なってきます。雪の結晶の写真を見てその結晶の名前を知りたいという質問がよくありますが実際に分類表のどれに当たるのかを明確に答えるのは容易ではありません。そのためあまり細かな形の分類を行うことよりも雪の結晶の成長にともなう形の変化の特徴を捉えることがより重要になります。この視点に立つと雪の結晶形は六角板六角柱樹枝状針状の4つの基本形に集約されます。その他の複雑な形はこれらの基本形の組み合わせや中間的な形として説明が可能です。すなわち分類表を見ると形の違いだけではなくそれぞれの生成過程まで推測できるということです。こう考えると中谷宇吉郎の「雪は天から送られた手紙である」という言葉の意味も見えてくるでしょう。

(回答掲載日:2026年4月28日)