南極は息が白くならないって本当ですか?

 私は、残念ながら南極には行ったことがないのですが、南極では吐く息はあまり白くならないという話は、確かに聞いたことがあります。吐く息に限らず、水蒸気をたっぷり含んだ空気が急に冷やされると、水蒸気は小さな水の粒として現れます。一つ一つの粒は小さいのですが、それが集団になると、光が乱反射されて白く見えるのです。上空の雲や霧なども、全く同様です。では、空気が冷やされたときに水蒸気が水の粒として現れるのはどうしてなのかを、はじめに考えてみましょう。

 水の粒が現れるためには、2つの重要な条件がそろわないといけません。まず1つ目は、空気中に水蒸気が過剰に含まれることです。ある一定の体積の空気が含むことのできる最大の水蒸気の量(飽和水蒸気量と呼びます)は、決まっています。この限界まで水蒸気を含んだ空気は、湿度100%ということになります。飽和水蒸気量は、気温によって大きく変化します。たとえば、1立方メートル当たりの空気に含まれる飽和水蒸気量は、気温が40℃ではおよそ50gですが、10℃になると10g程度まで減少します。湿度が100%より低い空気であっても、その空気を冷やしていくと、ある気温で湿度100%に達することになります。その温度よりさらに冷やすと、空気中には飽和水蒸気量以上に水蒸気を含むことになります。この過剰に含まれる水蒸気量が、水の粒を作る原料となります。

 一方、原料である過剰な水蒸気があっても、そう簡単には水の粒に変わることができません。水の粒を作るには、水蒸気が凝結するための核となる微細な粒子が必要なのです。このような粒子が空気中に存在することが、2つ目の条件になります。

 このことをもとにして、吐く息の問題を考えてみましょう。肺から吐き出されたばかりの空気は、体温に近い温度になっていて、水蒸気もたっぷり含まれています。この空気が周囲の冷たい空気と混じり合うと、温度が急に下がります。このため、混じり合った空気中の水蒸気は、その温度での飽和水蒸気量よりも過剰になる場合があります。上に述べた1つ目の条件は、これでクリアされます。さらに、私たちが住む地域では、空気中に地面から飛び出す土の粒子や人間の活動により排出される微粒子、さらには海洋などから出る細かな塩分の粒子などが多量に含まれていて、水の粒を作るための核となります。こうして、2つ目の条件も満たされると、水の粒が発生して息が白く見えるようになるのです。

 では、南極ではどうでしょう。南極の気温は、私たちの住む地域よりはるかに低いので、1つ目の条件はすぐに達成されるでしょう。しかしながら、南極では、空気中に核となる微粒子があまり含まれていません。それは、全体が氷で覆われているため地面が露出していないことや、人が住んでいないこと、さらには巨大な大陸で海から遠いことなど、微粒子を発生させる要因がないためです。すなわち、南極の空気は非常にきれいで、水の粒を作るための2つ目の条件が満たされないので、息が白くなりにくいと考えられます。「南極では吐く息が白くならない」というのは、南極の空気がいかに清浄であるかの証ともなっているのですね。

(回答掲載日:2022年10月29日)