音と雪の結晶について
音や言葉で、雪の結晶の形が影響を受けることはありません。
この話は、1990年代後半から2010年代初めにかけて流行った「水からの伝言」ということに関連しています。これは、水に言葉をかけると、その内容によって結晶の形が変わるということを主張したものです。しかし、物質である水の性質に人の言葉が影響を与えるなどは、科学的にはありえません。いわゆる、ニセ科学の典型として、当時大きな問題となりました。
それは、この話が多くの小学校で道徳の授業の教材として取り上げられるということが起こったためです。すなわち、「水にきれいな言葉をかけるときれいな結晶になり、汚い言葉をかけると汚い結晶になります。人間の体にはたくさんの水が含まれています。だから皆さん、きれいな言葉を使いましょう」という流れで、授業に取り入れられました。しかし、結晶の形には言葉の良し悪しなど関係がないことははじめに述べたとおりで、科学的根拠があるように見せかけた間違った内容で授業を行っていたということになります。そもそも、結晶の形がきれいかどうかの判断基準は、人それぞれに異なるはずです。さらには、言葉使いの良し悪しという判断を、まったく関係のない水という物質に委ねていることになります。一見論理的に見えても、非常に底の浅い内容ということができます。
なぜこのようなことが起こったのでしょうか。この話の前提として、一応結晶を作るという実験を行っているので、すっかり科学的事実であると思い込む人が続出してしまったことに大きな原因があります。しかし、科学実験とは、主観を排除して客観的な事実のみを捉えて議論をすることが基本です。さらには、他の研究者がその実験を再現でき、同じ結果を得られることも重要です。したがって、科学実験の結果には、結晶がきれいとか汚いという主観的な基準が入り込むことはありえません。すなわち、この話のもとになっている実験には、科学的な根拠がないのです。
私達の周りには、この話以外にもニセ科学やオカルトなどに当たるものがいろいろとあって、時には人々を惑わす原因となっています。このような怪しい言説に騙されないためには、正しい根拠に基づく科学的な思考をする力を鍛えることがとても重要なのです。
(回答掲載日:2023年12月24日)