北陸の雪
北陸の雪は水分が多いと良く言いますが、確かに雪の中に水があるようには見えませんね。
一つ実験を行ってみてください。かき氷を台所にあるじょうごに入れてみましょう。特にかき氷の中に水があるようには見えなくても,じょうごの出口からは水がしたたり落ちてくるはずです。このときの水は、かき氷がすこしずつ溶けているために出てきた水です。実際は、かき氷の粒の表面は溶け出した水の膜で覆われているはずですが、水も氷もどちらも無色透明ですので、私たちの目には水の膜の存在をなかなか見ることができないのです。北陸の雪は、このかき氷の状態になっていると考えてください。積雪の中でも、雪の粒の表面には目には見えなくても溶けた水分が存在し、溶けた水はすこしずつ下に向かって流れ出しています。北陸の雪は水分が多いというのは、北陸では冬と言っても気温が高いので、雪の粒がすでに溶け始めているために、水分量が多くなっているのです。
さて、この雪が溶けている状態では、雪の温度は0℃になっているはずですね(本Q&AのQ23の回答も参考にしてください)。では、雪の温度が0℃以下になったときには、雪の水分は完全に凍ってしまい、無くなってしまうはずですね。しかし、実際には雪が0℃以下になっても、雪の中の水分が完全になくなることはありません。これは、雪粒の表面の性質に関連しています。雪粒の表面、すなわち氷の表面には、温度が0℃以下になっても極めて薄い水の膜が存在しているのです。このような水が存在するので、氷点下になっても雪の中には必ず水分が含まれているということになります。
ところで、このような現象は表面融解と呼ばれ、この水の膜を擬似液体層と呼んでいます。氷の表面の水は、コップの中の水とはすこしだけその特徴が異なるので、“擬似”という言葉がついています。擬似液体層の存在は、氷の滑りやすさとも関連しています。例えば、スケートは、氷が0℃より低い温度でもとても良く滑ります。床に水をこぼすととても滑りやすくなり危険ですが、これは床に広がった水の膜が潤滑剤の役割をするためです。氷が滑りやすいのも、これと同じく擬似液体層が潤滑剤の役割をするためと考えられています。氷の表面の擬似液体層は、もともと1850年頃に物理学者のファラデーがその存在を予言したものです。それから150年以上がたった現在、私たちは、この疑似液体層が氷の表面で実際にどんな運動をするのかを直接観察することができます。詳しいお話は、このQ&AのQ14の回答に説明がありますので、参考にしてください。
(回答掲載日:2021年8月31日)