雪と氷のQ&A
検索結果: 過冷却水
衝撃による氷の形成
過冷却水の入った容器に衝撃を与えたら凍るのはなぜですか。(ずみほさん /大阪府・25歳)
容器に水を入れて冷やすと、必ずしも0℃で氷に変わるわけではなく、それ以下の温度でも液体のままで存在します。この過冷却の状態にある水は、水中のどこかに目には見えないほどの小さな氷の粒(氷の核)が発生すると、それをきっかけとして水全体が凍結を開始します。過冷却の度合い(過冷却度)が大きいほど、この氷の核のサイズが小さくなるという性質がありますので、過冷却度が大きくなるほどその状態を保つのは難しくなります。
すなわち、過冷却水が凍ってしまうかどうかは、凍結のきっかけになる氷の核の出来やすさによって決まることになります。例えば、過冷却度は同じであっても、水中に小さなゴミなどがあると、それが氷の核の生成を助けます。また、過冷却水を入れている容器の表面に傷などがあると、やはり氷の核の生成を手助けします。すなわち、過冷却水を作りやすくするためには、ゴミを含まないきれいな水を使うことや傷などのない容器を選ぶことが鍵ということになります。
では、このことを踏まえて、ご質問にある過冷却水の入った容器に衝撃を与えるとどうなるかを考えてみましょう。一般に、過冷却水の入った容器に衝撃を与えても、それ自体が氷の核の生成に何らかの影響を与えるかどうかは、実は良くわかっていません。容器に水を入れる時に、容器の上部には必ず隙間ができます。このため、容器を振ったり叩いたりすると、中の水は大きく揺すられて流動します。このような水の動きは、氷の核の生成を促進すると予想されます。すなわち、必ずしも“衝撃”自体が凍り始めるきっかけになるとは言い切れません。例えば、容器に完全に水を詰め込んで隙間がないほど密封すると、外部から容器に衝撃を与えても、そう簡単には凍り始めることはありません。すなわち、隙間がないので衝撃が与えられても水が流動しにくいからです。実際、私達は、ロケットの弾道飛行を利用して、無重力状態での氷結晶の成長実験を行ったことがあります。このときは、容器に密封した水を冷却して過冷却状態を作ってから打ち上げるのですが、ロケット打ち上げの激しい振動でもそれが原因で水が凍結することはありませんでした。このことからも、必ずしも衝撃そのものが、過冷却水を凍らせる原因とはならないと推測できます。
(密閉した容器に水を入れた場合、衝撃による流動は起こりにくいですが、衝撃による密度波が氷の核の生成に影響を与える可能性はあります)
(回答掲載日:2023年5月15日)
水 #過冷却水#水の不思議過冷却水
水道水以外で過冷却水を作ることはできますか?ジュースや牛乳でも作れるのでしょうか?(ノルさん / 福井県・10歳)
水道水のようなきれいな水は、温度が0℃以下になっても凍らずに、液体のままでいることができます。このような水を過冷却水と呼んでいます。ジュースや牛乳は、水分以外にもいろいろなものを含んでいますが、それでも過冷却した状態にすることはできます。しかし、水道水から過冷却水を作る場合とは、少し異なった性質を持ちます。
ジュースなどは、砂糖がたくさん入っていますので、0℃よりも低い温度で凍り始めるという性質があります。(溶けた砂糖の量で凍る温度も変わります。Q43も参考にしてください)このため、同じ温度に冷やした水道水とジュースでは、ジュースのほうが過冷却の度合いが小さくなります。
また、牛乳には、タンパク質や脂質、炭水化物などのさまざまな成分が含まれています。これらの成分は、それぞれ水への溶け方が異なっていて、過冷却水のでき方にも異なる影響を与えます。たとえば、タンパク質などは、砂糖と同じように水分の中に完全に溶け込むので、凍る温度が少しだけ下がります。一方、脂質などは細かなつぶつぶとなって水中に浮かんだ状態になっていますので、水の凍る温度にはあまり影響を与えません。すなわち、水道水やジュースを冷やした場合とは、かなり異なった性質をもつと考えられます。水道水、ジュース、牛乳を入れたペットボトルを用意して、冷凍庫でゆっくり冷やしてみてください。過冷却の状態のでき方や、過冷却状態が破れて凍るときの様子などが観察できれば、面白いと思います。
(関連する質問の回答も参考にしてください:Q18、Q23、Q43、Q53)
(回答掲載日:2022年10月22日)
水 #過冷却水#水の不思議過冷却水
家の冷凍庫で何度か挑戦したけど上手く出来ませんでした。成功のコツを教えてください。(かえでさん / 石川県・10歳)
水を冷やすと0℃以下になっても凍らずに液体のままでいるのは、とても不思議ですね。しかし、0℃以下では、水は本来氷になっているのが普通ですので、過冷却した水は今にも凍ってしまうのをギリギリの状態で耐えていると言うことができます。このため、少しでも過冷却した水の容器を振動させたりすると、すぐに氷ができてしまいます。また、水を入れた容器の表面に細かな傷がついていたり、水中にゴミなどが含まれていたりすると、そこからも氷ができてしまいます。こうして、あっという間に水全体が凍ってしまい、過冷却の状態を保つことが難しくなります。
家庭の冷凍庫で水を冷やして過冷却水を上手に作ることは、そう簡単ではありません。なぜなら、ドアを開け閉めするだけでもかなり大きなショックが加わりますし、そもそも冷凍庫は常に振動しています。このため、過冷却の状態を保つことが難しくなるのです。さらに、水を入れる容器も大事です。ガラスコップなどは、ガラスの表面に目に見えない細かな傷がたくさんついていることが多いので、そこから氷が発生してしまいます。一方、ペットボトルなどは、内側はかなりきれいで細かな傷も少なく、ガラスの容器よりは過冷却水を作りやすいようです。また、冷やす水もできるだけきれいな水を使うことも大事です。
家庭の冷凍庫で過冷却水を簡単に作れたら、楽しいですね。上に述べた注意点を参考にして、もう一度チャレンジしてみてください。
(過冷却水についての説明は、Q18、Q23、Q43の回答にもあります。参考にしてください)
(回答掲載日:2022年9月1日)
水その他の現象 #過冷却水#雹#水の不思議凝固点降下と過冷却
過冷却と凝固点降下について教えてください。過冷却は凍るとき核となる何かきっかけがあって凍り始めるのであれば、なぜ不純物(核?)がたくさん溶けている水は0度以下ですぐ凍り出さないのでしょうか?過冷却の核と不純物は違うのでしょうか?凝固点降下の状態の方が過冷却より起こりやすい現象なのでしょうか?(ゆきまるさん / 富山県・18歳)
過冷却も凝固点降下も液体が凍る温度(凝固点、注参照)に関連するので、混乱しますね。しかし、この2つは、全く別の現象です。また、これらの現象はどのような液体でも起きるのですが、ここでは質問にあるように液体として水を考えます。
まず、過冷却から考えてみましょう。過冷却とは、液体の水をゆっくり冷やしていったとき、水の凝固点(0℃)になっても凍結を開始せず、凝固点以下の温度でも液体のままで存在する現象です。したがって、水の凝固点自体には、変化はありません。過冷却の状態にある水は、本来はその温度では固体の氷になっている方が安定なので、何かきっかけがあれば凍りたがっている状態といえます。このきっかけは、過冷却水中にある大きさをもった氷の固まり(すなわち、「氷の核」)ができることで、核生成と呼ばれる現象です。過冷却水中にこの氷の核が1個でもできると、一気に全体が凍り始めるのです。
さて、ここで「氷の核」と言いましたが、過冷却水中にいきなり氷の核が発生するのはとても困難なことです。しかしながら、水中に細かな粒子が含まれていたり、容器の表面に傷があったりすると、この氷の核ができやすくなるという性質を持っています。氷の核の生成を助けるような粒子などを、氷晶核や凍結核などと“核”をつけて呼ぶことも多いですが、これはいわゆる「氷の核」そのものではないことに注意が必要です。
一方、凝固点降下というのは、水に不純物が“溶け込んでいる”状態、すなわち水溶液になっている場合に、凝固点そのものが下がる現象です。通常は、モル凝固点降下と呼ばれていて、水中に溶けた不純物をモル濃度で表示すると、それに比例して凝固点が降下します。例えば、海水には塩が含まれていますので、凝固点は−1.9℃程度になります。したがって、0℃と−1.9℃の間の温度では、海水は決して過冷却状態ではないことになります。
最後に、この海水の温度をもっと下げていくと、どうなるかを考えてみましょう。海水の凝固点である−1.9℃までは、もちろん液体のままですが、もっと温度が低くなると、過冷却状態となり、やはり液体のままで存在できます。過冷却の大きさ(過冷却度と言います)は、凝固点からどれだけ温度が低下しているかで定義しますので、同じ温度の過冷却状態であっても、過冷却度は純水のほうが大きいということになります。過冷却した海水が凍り始めるときも、純水と同じく氷の核が必要です。水に溶けている不純物の分子はあまりにも小さいので、氷の核の生成を助けるものには、ならないのです。
(注:この説明では、液体が固体に変わる温度として、“凝固点”という語を使いました。しかし、逆に固体が液体に変わるときには、“融点”という語を使います。両者は、全く同一の温度ですので、どちらを使っても構いません。)
(回答掲載日:2022年3月8日)
水 #過冷却水#凝固点降下どうして水は0℃以下で氷になるのですか?
れいぞうこでできるような「氷」のことをしらべています。ひゃっかじてんでは、「氷 水がこおって固体になったもの。ふつうは、0℃以下でこおりになる。」とかいてありました。1.どうして水は、0℃以下になると氷になってしまうのですか? 2.ぴったり0℃でも氷になれるのですか? よろしくおねがいします。( すずき あやなさん / 福岡県・7歳 )
氷は、水が凍って固体になったものと言っても、なんだかよくわからないですね。すこし難しいお話になりますが、説明しましょう。
まず、水や氷は、“水分子”と呼ばれるとても小さな粒が集まってできています。コップに入れた水は、たくさんの水分子がぐちゃぐちゃになって詰め込まれていると思ってください。温度が0℃より高いときには、コップの中の水分子は、自由に動き回ることができます。このため、コップを斜めにすると水は流れ出してしまいます。しかし、温度が下がってくると水分子はだんだん動きにくくなり、やがて0℃になると、もう動き回ることができなくなってしまいます。こうなると水は、かたまりの氷に変わってしまい、コップから流れ出すこともできなくなります。
氷の中の水分子の様子をもう少し説明しましょう。実は、氷の中では水分子のようすとはとても異なっていて、水の中のぐちゃぐちゃではなく、とても規則正しく並んでいます。このように分子が規則正しく並んでいるものを、「結晶」と呼びます。氷は、水が凍ってできた結晶なのですね。
少し難しいと思いますので、ジグソーパズルを思い出してください。ジグソーパズルのピースを水分子だと思うと、ジグソーパズルを始める前はピースがぐちゃぐちゃの山になっていて、簡単にかき混ぜることができます。これが、“水”のなかの水分子のようすです。そして、ピースをきれいに並べて、ジグソーパネルを完成させると、ピースはもう自由に動けなくなります。これが、“氷”と言うことになります。こうすると、水と氷の中での水分子の様子が少しわかりやすいですね。おうちのジグソーパズルで確かめてみてください。
また、「水が凍って氷に変わる温度は0℃」とよく言いますね。しかし、私たちが温度を測るときにどうするかを考えてみましょう。温度を測るためには、どこかに基準となる温度を決めておかないといけません。この基準の温度として、私たちは“水が氷に変わる温度”を0℃と決めているのです。水は、私たちの身の回りにある、もっとも大切なものです。このため、水が氷に変わる温度をもっとも大事な基準の温度として、0℃としたのです。
また、ぴったり0℃でも氷になれるのかは、そのとおりです。しかし、水をゆっくり冷やしていくと、実際には0℃以下になっても氷にならずに、水のままでいることもあります。これは、最初に水が凍り始めるときの、氷のできかたによリます。少し難しい言葉ですが、0℃以下でも凍っていない水を、“過冷却水”と呼びます。雪の科学館では、実際に過冷却水を作って、この水が凍る様子を実演しています。科学館に来る機会がありましたら、ぜひ実演に参加してください。科学館の公式YouTubeチャンネルにもその様子を紹介しています。
〈過冷却水のせつめいは 6分30秒からはじまります〉
(回答掲載日:2021年8月5日)
氷水 #水の不思議#氷の不思議#温度雲が凍らない理由
上空は寒いのに、雲が凍らないのはなぜですか?また、雲が空に浮かんでいられるのはなぜですか?教えてください。(Kitutukiさん / 岐阜県・13歳)
雲は、小さな水滴(雲粒)がたくさん集まってできています。雲粒の大きさは、直径で3〜10μm(すなわち、0.003〜0.01mm)程度でとても小さいものです。上空に行くと気温は下がり、やがて0℃より低くなります。雲粒は小さいとは言っても水でできていますから、このような温度になると凍ってしまってもおかしくないですね。
実際には、気温が0℃以下であっても、雲粒は凍らずに水滴のままでいることができます。これは、水のもつ「過冷却」という性質によります。中谷宇吉郎雪の科学館では、ペットボトルに入れた水を冷凍庫で−5℃程度まで冷やしても、凍らずに液体のままでいることを示す実験を毎日行っています。この実験で作っている水が「過冷却水」と呼ばれるものです。この過冷却水は、ペットボトルを叩いたり、振ったりすると、簡単に過冷却の状態が破れて凍ってしまいます。それは、ペットボトルに与えた振動が氷を作るきっかけになるためです。また、振動がなくても、水の中に含まれているゴミやペットボトルの容器についた傷などがきっかけになって、やがて凍ってしまいます。
しかし、雲粒の場合は、非常に小さいのでその内部にはゴミなどが入っていることはあまりありません。また、空気中に浮かんでいるので、容器の傷などの影響もありません。このため、ペットボトルで作る過冷却水より、もっと低い温度まで簡単に過冷却してしまいます。条件が良いときには、雲粒は−40℃程度まで凍らずに、液体の状態でいることができます。雲は、驚くほど低温になっても、凍らずにいることができるのですね。
最後に、雲が空に浮かんでいられる理由ですが、雲を作る雲粒が非常に小さいことに関係しています。雲粒は、小さいとは言っても、もちろん地上に向かってゆっくり落下していきます。しかし、雲ができるときには、大気が上に向かって上昇していることが多いので、小さな雲粒も大気の流れに沿って上昇していきます。このバランスが取れているため、雲は空に浮かんでいることができるのです。
(回答掲載日:2021年3月30日)
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