教えて館長!雪と氷のQ&A

皆さまから寄せられた雪や氷の質問・疑問に、古川館長がお答えしました!

古川義純先生

古川 義純(ふるかわ よしのり)先生

中谷宇吉郎雪の科学館 館長 / 北海道大学 名誉教授


日本結晶成長学会の会長や、北海道大学の低温科学研究所の所長などを歴任し、国際宇宙ステーション「きぼう」で氷の成長の宇宙実験を行ったことでも知られています。


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Q98

宇宙の水(氷)の総体や身体の氷

①以前、「宇宙の水の総体はかわらず、循環しながら水はあるので、太古の水を私たちは雨や雪などを通して飲んでいるのだそうですよ」と教えていただいたことがあります。その通りでしょうか? ②循環した水が、氷となって雪となって空から降ってくる時に植物や動物やいろいろなものを通過した氷や雪も、水のように記憶を運びますか?その時は結晶やなにか固有の特性はありますか?(Cuuさん / 岐阜県)

 水は、水素と酸素が結合した分子(H2O、水分子)でできた物質です。したがって、水そのものには、太古のものや現在のものというような区別は、存在しません。現在私達の周りのある水は、宇宙が誕生し進化する過程で、ある時に大量の水分子が生成され、それらが現在の地球や宇宙空間にそのままで残されているというのは、もちろんそのとおりです。しかし、最初に述べたように、水は一つの物質に過ぎないので、宇宙で初めて生成された頃の水と現在私達の周りにある水の間には何ら違いがなく、両者を区別することも意味のないことです。

 また、一つの物質に過ぎない水には、それが記憶を持つというようなことも、なんらかの意図を持つといったことも、絶対にありえません。したがって、水がどのような循環をしたとしても、水にその記録が残ると言ったこともありません。さらに、雪や氷は、水という物質が固体の状態になって存在しているだけですので、その水が過去にどのような循環をしたかということは、雪や氷の特性に影響を与えることもありません。雪や氷の結晶形や特性は、その結晶がどのような過程を経てできたかに依存します。しかし、これは科学的な考察の結果としては、結晶ができるときの気象条件によって形が変化するということであって、決して人間の意図や記憶、意識といったものを反映するものではないことも明らかです。

 水、氷、雪というと、私達のきわめて身近にあることや、生き物の生命維持に重要な役割を果たしているというようなことから、水そのものが何らかの記憶を持つとか、人間の意図を理解できるというような怪しい言説が流布されることがあります。しかし、水という物質そのものが、そのような性質を持つことは、科学的に絶対にありえないので注意が必要です。このことに関連する質問の回答が、本Q&AのQ.81にもありますので、そちらも合わせて御覧ください。

  (回答掲載日:2024年9月6日)





#宇宙#水の不思議#氷の不思議
Q93

飲める水と飲めない水に結晶の差はある?

飲める水と飲めない水に結晶の差はありますか? この結晶があれば飲める、または、飲めないの判断が出来る結晶はありますか?(furucocoさん / 石川県・11歳)

 水は、私達の身体の中にも大量に含まれていて、体重のおよそ60%が水分です。したがって、水そのものには毒性はなく、飲める水と飲めない水などの区別はありません。しかし、“この水は飲めない”ということは、よく言ったり聞いたりする言葉ですね。これは、水そのものというわけではなくて、その水にどんなものが溶け込んでいるのかということが、その違いの原因です。私達が飲む水には、必ず何かが溶け込んでいます。溶けているものに毒性がなく、なおかつ食品として使われるものであれば、その水を飲んでも問題はありません。逆に、食品でないものや私達の身体に害を及ぼすものが溶けこんだ水は飲むことはできません。

 さて、ご質問にあるような水が凍ってできた氷の結晶については、それが飲める水と飲めない水の区別できるかということですが、その目的には使うことはできません。もちろん、何も溶けていない水からできた氷と、何かが溶けている水からできた氷に、その特性や形に違いが起こることはありえます。それは、結晶ができるときに、水に溶け込んでいるものが影響を及ぼすからです。しかし、それは溶けているものが無害なのか有害なのかには関係ありませんので、結晶を観察したとしても、その結果で飲める水か飲めない水かの判断はできません。

  (回答掲載日:2024年8月4日)

#水#結晶#水の不思議#氷#氷の不思議
Q74

こおりのしつもん

こおりはどうしてかたまるの?(たちかわももさん /東京都・5歳)

 コップに入れた水を、冷凍庫の中に入れておくと、だんだん冷やされて、やがて固い氷になってしまいますね。冷やすだけなのに、水が固まってしまうのはとても不思議ですね。

 私達の身の回りには、水だけではなく“液体”のものがたくさんありますね。たとえば、台所には、牛乳や油、酢など、いろいろな液体があります。このような液体は、どれも冷やされると固くなってしまう性質を持っています。液体が固くなる温度は、その種類によって違います。水は、ちょうど0度で固い氷に変わります。

 ももさんのお家の台所にあるいろいろな液体を少しだけコップに入れて、冷凍庫で冷やしてみてください。水と同じように冷やされると固くなるはずです。もし、温度計があったら温度を測ってみると、どの温度で固くなるかが分かります。お父さん、お母さんといっしょに実験してみてください。 

 水が冷やされると固い氷に変わることは、この「雪と氷のQ&A」コーナーのQ23の回答にも説明があります。参考にして下さい。

 

(*漢字のふりがなつき回答はこちら)

(回答掲載日:2023年5月15日)

 

#水の不思議#氷の不思議
Q73

衝撃による氷の形成

過冷却水の入った容器に衝撃を与えたら凍るのはなぜですか。(ずみほさん /大阪府・25歳)

 容器に水を入れて冷やすと、必ずしも0℃で氷に変わるわけではなく、それ以下の温度でも液体のままで存在します。この過冷却の状態にある水は、水中のどこかに目には見えないほどの小さな氷の粒(氷の核)が発生すると、それをきっかけとして水全体が凍結を開始します。過冷却の度合い(過冷却度)が大きいほど、この氷の核のサイズが小さくなるという性質がありますので、過冷却度が大きくなるほどその状態を保つのは難しくなります。

 すなわち、過冷却水が凍ってしまうかどうかは、凍結のきっかけになる氷の核の出来やすさによって決まることになります。例えば、過冷却度は同じであっても、水中に小さなゴミなどがあると、それが氷の核の生成を助けます。また、過冷却水を入れている容器の表面に傷などがあると、やはり氷の核の生成を手助けします。すなわち、過冷却水を作りやすくするためには、ゴミを含まないきれいな水を使うことや傷などのない容器を選ぶことが鍵ということになります。

 では、このことを踏まえて、ご質問にある過冷却水の入った容器に衝撃を与えるとどうなるかを考えてみましょう。一般に、過冷却水の入った容器に衝撃を与えても、それ自体が氷の核の生成に何らかの影響を与えるかどうかは、実は良くわかっていません。容器に水を入れる時に、容器の上部には必ず隙間ができます。このため、容器を振ったり叩いたりすると、中の水は大きく揺すられて流動します。このような水の動きは、氷の核の生成を促進すると予想されます。すなわち、必ずしも“衝撃”自体が凍り始めるきっかけになるとは言い切れません。例えば、容器に完全に水を詰め込んで隙間がないほど密封すると、外部から容器に衝撃を与えても、そう簡単には凍り始めることはありません。すなわち、隙間がないので衝撃が与えられても水が流動しにくいからです。実際、私達は、ロケットの弾道飛行を利用して、無重力状態での氷結晶の成長実験を行ったことがあります。このときは、容器に密封した水を冷却して過冷却状態を作ってから打ち上げるのですが、ロケット打ち上げの激しい振動でもそれが原因で水が凍結することはありませんでした。このことからも、必ずしも衝撃そのものが、過冷却水を凍らせる原因とはならないと推測できます。

(密閉した容器に水を入れた場合、衝撃による流動は起こりにくいですが、衝撃による密度波が氷の核の生成に影響を与える可能性はあります)

(回答掲載日:2023年5月15日)

#過冷却水#水の不思議
Q64

過冷却の水について

過冷却の水は家でも作れますか? どうしてふると氷になるのですか?作れるなら作り方も教えて下さい!(ラスカルだよーさん / yuuka_025さん / ななTsuさん / 石川県・11-12歳)

 コップに入れた水をゆっくり冷やしていくと、0℃以下になっても凍らないで液体のままでいることがあります。これを過冷却と呼びますが、とても不思議な現象ですね。この過冷却の水は、家庭でも作ることができます。たとえば、きれいに洗浄したペットボトルの中にきれいな水を入れて、冷凍庫で冷やします。このとき、熱を伝えにくいもの(プチプチのビニールや断熱シートなど)でペットボトルをくるむなどの工夫をして、できるだけゆっくりと水を冷やすことが大事です。こうして、水温が0℃以下になるまで振ったり動かしたりしないように静かに冷やしていくと、過冷却の水ができます。

 こうしてできた過冷却の水は、本当は氷になりたがっているのですが、あまりにゆっくり冷やしたため、凍るきっかけがつかめなかったと考えてください。しかし、ペットボトルを急に振ったりすると過冷却の水がかき回されて、氷ができてしまうのです。もともと、氷になりたがっていた水ですので、いったん氷ができるとペットボトルの水全体がいっせいに氷に変わり、凍ってしまうのです。

(回答掲載日:2023年2月14日)

#過冷却水#実験#水の不思議
Q55

過冷却水

水道水以外で過冷却水を作ることはできますか?ジュースや牛乳でも作れるのでしょうか?(ノルさん / 福井県・10歳)

 水道水のようなきれいな水は、温度が0℃以下になっても凍らずに、液体のままでいることができます。このような水を過冷却水と呼んでいます。ジュースや牛乳は、水分以外にもいろいろなものを含んでいますが、それでも過冷却した状態にすることはできます。しかし、水道水から過冷却水を作る場合とは、少し異なった性質を持ちます。

 ジュースなどは、砂糖がたくさん入っていますので、0℃よりも低い温度で凍り始めるという性質があります。(溶けた砂糖の量で凍る温度も変わります。Q43も参考にしてください)このため、同じ温度に冷やした水道水とジュースでは、ジュースのほうが過冷却の度合いが小さくなります。

 また、牛乳には、タンパク質や脂質、炭水化物などのさまざまな成分が含まれています。これらの成分は、それぞれ水への溶け方が異なっていて、過冷却水のでき方にも異なる影響を与えます。たとえば、タンパク質などは、砂糖と同じように水分の中に完全に溶け込むので、凍る温度が少しだけ下がります。一方、脂質などは細かなつぶつぶとなって水中に浮かんだ状態になっていますので、水の凍る温度にはあまり影響を与えません。すなわち、水道水やジュースを冷やした場合とは、かなり異なった性質をもつと考えられます。水道水、ジュース、牛乳を入れたペットボトルを用意して、冷凍庫でゆっくり冷やしてみてください。過冷却の状態のでき方や、過冷却状態が破れて凍るときの様子などが観察できれば、面白いと思います。

(関連する質問の回答も参考にしてください:Q18、Q23、Q43、Q53

(回答掲載日:2022年10月22日)

#過冷却水#水の不思議
Q54

打ち水

小学3年生の娘に打ち水をすると何故冷えるのか質問されました。回答をお願いいたします。(kikuoさん / 石川県・32歳)

 夏の暑い日に打ち水をすると、確かに冷えて涼しくなりますね。これは、まいた水が蒸発して水蒸気になる時に、周りの熱を吸収するので冷えるのです。と言っても、ありきたりの回答ですので、一つ実験をしてみてください。最初にタオルを水で濡らして、固く絞ります。そのタオルを手のひらでつかんで大体の冷たさを覚えておいてください。次に、そのタオルの端を手に持って、ぐるぐる勢いよく回します。10回ぐらい回したら、タオルをもう一度つかんでください。さあどうなっているでしょう。

 答えは、最初につかんだときより少し冷たくなっているはずです。これは、タオルに含まれていた水がぐるぐる回すことで蒸発し、そのときに熱を吸収したからです。打ち水で涼しくなると言うのも、その原理はこれと同じです。

 さて、ここから少しだけ難しいお話になります。水が蒸発するとなぜ熱を吸収するのかですが、これは水を作っている水の分子がどれだけ活発に動き回っているかによります。液体の水では、水分子は容器の中収まっていますが、これが気体の水蒸気になると空気中を水分子が自由に飛び回っている状態になります。これは、液体の中の水分子よりも水蒸気の状態の水分子のほうがより活発に動き回っていることを示しています。この水分子動きの激しさは、熱によってもたらされます。水が蒸発して水蒸気になるには、水分子の動きを活発にするための熱が必要ということになります。このため、水分の蒸発に伴って周囲の熱が吸収されるので、周囲は冷えて冷たくなるのです。

(回答掲載日:2022年9月1日)

#打ち水#水の不思議
Q53

過冷却水

家の冷凍庫で何度か挑戦したけど上手く出来ませんでした。成功のコツを教えてください。(かえでさん / 石川県・10歳)

 水を冷やすと0℃以下になっても凍らずに液体のままでいるのは、とても不思議ですね。しかし、0℃以下では、水は本来氷になっているのが普通ですので、過冷却した水は今にも凍ってしまうのをギリギリの状態で耐えていると言うことができます。このため、少しでも過冷却した水の容器を振動させたりすると、すぐに氷ができてしまいます。また、水を入れた容器の表面に細かな傷がついていたり、水中にゴミなどが含まれていたりすると、そこからも氷ができてしまいます。こうして、あっという間に水全体が凍ってしまい、過冷却の状態を保つことが難しくなります。

 家庭の冷凍庫で水を冷やして過冷却水を上手に作ることは、そう簡単ではありません。なぜなら、ドアを開け閉めするだけでもかなり大きなショックが加わりますし、そもそも冷凍庫は常に振動しています。このため、過冷却の状態を保つことが難しくなるのです。さらに、水を入れる容器も大事です。ガラスコップなどは、ガラスの表面に目に見えない細かな傷がたくさんついていることが多いので、そこから氷が発生してしまいます。一方、ペットボトルなどは、内側はかなりきれいで細かな傷も少なく、ガラスの容器よりは過冷却水を作りやすいようです。また、冷やす水もできるだけきれいな水を使うことも大事です。

 家庭の冷凍庫で過冷却水を簡単に作れたら、楽しいですね。上に述べた注意点を参考にして、もう一度チャレンジしてみてください。

(過冷却水についての説明は、Q18Q23Q43の回答にもあります。参考にしてください)

(回答掲載日:2022年9月1日)

その他の現象 #過冷却水#雹#水の不思議
Q51

水質

世界には軟水や硬水などありますが、氷になる時間や硬さは変わるのでしょうか?氷の舌触りや氷の溶ける速さなどは変わるのでしょうか?(お水大好きさん / 石川県・49歳)

 軟水と硬水の違いは、主にカルシウムやマグネシウムなどの含有物の量によって分けられます。WHO(世界保健機構)の基準では、硬度(水1リットルに含まれるカルシウムやマグネシウムの量)が120mg/L未満を軟水、それ以上を硬水と分けています。(※)この含有物の量は非常に少ないので、水が氷に変わっても氷の硬さにはほとんど影響はありません。また、含有物に量は、水が凍る温度を下げる働きがあるのですが(モル凝固点降下と言います。Q43を参照してください)、これも含有量が少ないのでほとんど影響はなく、氷になる時間にも変化はありません。

 含有物を含む水としては、海水を思い浮かべます。海水には、主として塩化ナトリウムが含まれていて、その濃度はおおよそ30g/Lです。この濃度は、軟水や硬水の含有物の濃度の300倍前後になります。このくらいの量になると、海水の凍る温度はマイナス1℃程度まで低下し、できた氷の隙間にも塩分が入り込むので、結果として氷もやわらかくなります。

(※WHOの基準は、実際にはもう少し細かく区分けされています)

(回答掲載日:2022年9月1日)

#硬水#軟水#水質#水の不思議
Q50

液体

凍らない液体はありますか(ねこねこさん / 栃木県・12歳)

 物質は、圧力と温度の条件によって、液体であったり固体(結晶)であったり、気体であったりします。例えば、水は0℃以上では液体ですが、0℃以下になると固体である氷にかわります。一方、液体の水は蒸発して、気体である水蒸気にも変わります。固体の氷の表面からも蒸発は起こり、水蒸気に変わります。(この変化は、特に昇華と呼ばれます)この変化は、どんな物質にも共通ですので、凍らない液体というのはありません。(※)

 しかし、非常にネバネバした液体では、温度が低下すると凍る前にネバネバが強くなって非常に固くなり、凍るということが起こらないままで温度が下がってしまう場合があります。その典型的なものが、ガラスです。ガラスは、非常に硬いですが、実は凍っていない液体ということができます。ネバネバがとても強くて、一見固体のように見えているのです。しかし、このネバネバの液体も、長い時間が経過すると固体である結晶になることがあります。何百年も前に作られた古いガラスの中には、固体であるガラスの結晶が生まれているのを観察できることもあります。

(※家庭にある液体というと、油などがすぐに思いつきます。しかし、家庭で使う油は、冷やしてもどこで凍ったのかがはっきりしません。これは、油はいろいろな種類の成分が混じり合ってできているからです。それぞれの成分ごとに見ると凍る温度は決まっているのですが、これが混じり合うとはっきり凍る温度が決まらなくなってしまいます)

(回答掲載日:2022年9月1日)

#液体#水の不思議
Q43

凝固点降下と過冷却

過冷却と凝固点降下について教えてください。過冷却は凍るとき核となる何かきっかけがあって凍り始めるのであれば、なぜ不純物(核?)がたくさん溶けている水は0度以下ですぐ凍り出さないのでしょうか?過冷却の核と不純物は違うのでしょうか?凝固点降下の状態の方が過冷却より起こりやすい現象なのでしょうか?(ゆきまるさん / 富山県・18歳)

  過冷却も凝固点降下も液体が凍る温度(凝固点、注参照)に関連するので、混乱しますね。しかし、この2つは、全く別の現象です。また、これらの現象はどのような液体でも起きるのですが、ここでは質問にあるように液体として水を考えます。

 まず、過冷却から考えてみましょう。過冷却とは、液体の水をゆっくり冷やしていったとき、水の凝固点(0℃)になっても凍結を開始せず、凝固点以下の温度でも液体のままで存在する現象です。したがって、水の凝固点自体には、変化はありません。過冷却の状態にある水は、本来はその温度では固体の氷になっている方が安定なので、何かきっかけがあれば凍りたがっている状態といえます。このきっかけは、過冷却水中にある大きさをもった氷の固まり(すなわち、「氷の核」)ができることで、核生成と呼ばれる現象です。過冷却水中にこの氷の核が1個でもできると、一気に全体が凍り始めるのです。

 さて、ここで「氷の核」と言いましたが、過冷却水中にいきなり氷の核が発生するのはとても困難なことです。しかしながら、水中に細かな粒子が含まれていたり、容器の表面に傷があったりすると、この氷の核ができやすくなるという性質を持っています。氷の核の生成を助けるような粒子などを、氷晶核や凍結核などと“核”をつけて呼ぶことも多いですが、これはいわゆる「氷の核」そのものではないことに注意が必要です。

 一方、凝固点降下というのは、水に不純物が“溶け込んでいる”状態、すなわち水溶液になっている場合に、凝固点そのものが下がる現象です。通常は、モル凝固点降下と呼ばれていて、水中に溶けた不純物をモル濃度で表示すると、それに比例して凝固点が降下します。例えば、海水には塩が含まれていますので、凝固点は−1.9℃程度になります。したがって、0℃と−1.9℃の間の温度では、海水は決して過冷却状態ではないことになります。

 最後に、この海水の温度をもっと下げていくと、どうなるかを考えてみましょう。海水の凝固点である−1.9℃までは、もちろん液体のままですが、もっと温度が低くなると、過冷却状態となり、やはり液体のままで存在できます。過冷却の大きさ(過冷却度と言います)は、凝固点からどれだけ温度が低下しているかで定義しますので、同じ温度の過冷却状態であっても、過冷却度は純水のほうが大きいということになります。過冷却した海水が凍り始めるときも、純水と同じく氷の核が必要です。水に溶けている不純物の分子はあまりにも小さいので、氷の核の生成を助けるものには、ならないのです。

(注:この説明では、液体が固体に変わる温度として、“凝固点”という語を使いました。しかし、逆に固体が液体に変わるときには、“融点”という語を使います。両者は、全く同一の温度ですので、どちらを使っても構いません。)

(回答掲載日:2022年3月8日)

#過冷却水#凝固点降下
Q25

家の冷凍庫でシャボン玉を凍らせて結晶を見る方法

中谷宇吉郎さんに憧れて、結晶について調べています。 シャボン玉を凍らせて結晶ができる映像がとても綺麗で自分の目で見たいと思ったのですが、今年もコロナの影響で雪の科学館に行けません。 家の冷凍庫で作ってみようと思ったのですが上手くできません。 冷やしたステンレスのトレイにシャボン玉を膨らませ、マイナス18℃の家の冷凍庫に入れました。シャボン玉が凍る前にシャボン玉が割れてしまいます。 割れにくいシャボン玉(砂糖シロップ入)を作って凍らせましたが、やはり冷凍庫に入れると割れてしまいます。色々シャボン玉の液体を試したのですが全滅です。 家の冷凍庫では、シャボン玉を凍らせて結晶を見る事はできませんか? 家で綺麗な結晶を作って観察してみたいのです。 観察できる方法のヒントをください。(氷博士になりたいにゃーこさん / 栃木県・12歳)

 シャボン玉の膜を凍らせるときれいな氷の結晶ができていく様子を観察することができますね。簡単にできそうですが、じっさいにやってみると、なかなかうまくいきません。じつは、単に普通にシャボン玉を作るだけではなく、いくつかの工夫がされています。

 まず、シャボン膜を作る方法ですが、シャボン玉の膜は球形ですので、少し工夫をして平らな膜を作ります。この平らな膜は、直径1ミリくらいの針金で丸い枠(直径10センチくらい)を作り、その枠にシャボン膜を張ることで作ることができます。シャボン膜を作る液体は、水に普通の家庭用の食器洗い洗剤をまぜるだけで構いません。この液を平たいお皿に入れて、その中に針金の枠をつけてゆっくり引き上げると、枠の内側に平らなシャボン膜を作ることができます。入れる洗剤の量を変えて、シャボン膜を一番作りやすい洗剤の量を決めてください。

 こうして作ったシャボン膜を、割らないように注意して冷凍庫の中にそっと入れると、膜の中に氷の結晶ができるはずです。しかし、このままではシャボン膜はあっという間に凍ってしまって、結晶のできる様子を見るのはちょっと難しいと思います。そこで、もう一つの工夫が必要になります。それは、洗剤を溶かした水の中に、さらに砂糖を入れてよく溶かします。溶かした砂糖は、水が凍る速さをおさえる作用があります。このため、砂糖の量を増やしていくと、だんだん凍る速さが遅くなり、やがてシャボン膜の中できれいな氷の結晶がゆっくりとできていく様子を観察できるようになります。砂糖の量をいろいろ変えてみて、結晶が一番キレイに見える量を決めてください。

 洗剤の量と砂糖の量をいろいろと変えてみて、結晶のでき方や結晶の大きくなる速さなどの違いを観察してみるのも楽しいですね。また、砂糖ではなくて塩を入れたらどうなるかなど、水に溶かすもので何か違いがでてくるかなども興味深いですね。頑張って、実験を行ってみてください。

(回答掲載日:2021年8月31日)

その他の現象 #実験#結晶の不思議
Q24

水から出て来る泡は何ですか?

お湯がわくとどうして泡がでるのでしょうか? 泡は空気なのですか?(yuyuさん / 福井県・10歳)

 水から出てくる泡は、小さなつぶつぶの泡がゆっくり出てきたり、おどるように泡がつぎつぎと出てきたりと、いろいろな場合がありますね。さらに、その泡が何でできているかについても、それぞれでちがいます。いくつかの場合について、見てみましょう。

 まず、コップの中に水道の水を入れてみましょう。このコップを別の容器に入れたお湯の中につけて、コップの水を暖めるとコップの内側に気泡ができるのが見えると思います。この気泡は、水に溶けていた空気が泡になって現れたもので、泡の中身はほとんどが空気で、少しだけ水蒸気(すいじょうき)(水が蒸発したもの)が含まれています。水を冷凍庫に入れて凍らせると氷ができますが、この氷の中にはやはり空気でできた泡がたくさんはいっていますね。コップで出来た泡と同じものです。

 いっぽう、やかんなどに水を入れてコンロにかけ、いっきに温度を上げるとお湯がわきます。このとき、やかんのなかではつぎつぎと泡がでてきて、おどるように動いています。これは、やかんの水が100℃になっていて、すこしむずかしいですが「沸騰(ふっとう)」というものです。沸騰している水のなかにできる泡は、水蒸気でできていて、空気の成分はほとんどはいっていません。

 また、炭酸の入ったペットボトルの飲み物のフタを開けると、飲み物の中に小さな泡がたくさんできるのが見えますね。この泡は、飲み物に含まれていた炭酸ガス(二酸化炭素とも言います)が泡になってでてきたものです。ですので、このときの泡の中には、空気ははいっていません。

 このように、水の中の泡と言っても、そのでき方によって、空気の泡であったり、水蒸気の泡であったり、あるいは炭酸ガスの泡であったりするのですね。この他にも、いろいろな泡がありますが、そのでき方や何でできているかなどを調べてみるのも楽しいと思います。

(回答掲載日:2021年8月31日)

#水の不思議
Q23

どうして水は0℃以下で氷になるのですか?

れいぞうこでできるような「氷」のことをしらべています。ひゃっかじてんでは、「氷 水がこおって固体になったもの。ふつうは、0℃以下でこおりになる。」とかいてありました。1.どうして水は、0℃以下になると氷になってしまうのですか? 2.ぴったり0℃でも氷になれるのですか? よろしくおねがいします。( すずき あやなさん / 福岡県・7歳 )

 氷は、水が凍って固体になったものと言っても、なんだかよくわからないですね。すこし難しいお話になりますが、説明しましょう。

 まず、水や氷は、“水分子”と呼ばれるとても小さな粒が集まってできています。コップに入れた水は、たくさんの水分子がぐちゃぐちゃになって詰め込まれていると思ってください。温度が0℃より高いときには、コップの中の水分子は、自由に動き回ることができます。このため、コップを斜めにすると水は流れ出してしまいます。しかし、温度が下がってくると水分子はだんだん動きにくくなり、やがて0℃になると、もう動き回ることができなくなってしまいます。こうなると水は、かたまりの氷に変わってしまい、コップから流れ出すこともできなくなります。

 氷の中の水分子の様子をもう少し説明しましょう。実は、氷の中では水分子のようすとはとても異なっていて、水の中のぐちゃぐちゃではなく、とても規則正しく並んでいます。このように分子が規則正しく並んでいるものを、「結晶」と呼びます。氷は、水が凍ってできた結晶なのですね。

 少し難しいと思いますので、ジグソーパズルを思い出してください。ジグソーパズルのピースを水分子だと思うと、ジグソーパズルを始める前はピースがぐちゃぐちゃの山になっていて、簡単にかき混ぜることができます。これが、“水”のなかの水分子のようすです。そして、ピースをきれいに並べて、ジグソーパネルを完成させると、ピースはもう自由に動けなくなります。これが、“氷”と言うことになります。こうすると、水と氷の中での水分子の様子が少しわかりやすいですね。おうちのジグソーパズルで確かめてみてください。

 また、「水が凍って氷に変わる温度は0℃」とよく言いますね。しかし、私たちが温度を測るときにどうするかを考えてみましょう。温度を測るためには、どこかに基準となる温度を決めておかないといけません。この基準の温度として、私たちは“水が氷に変わる温度”を0℃と決めているのです。水は、私たちの身の回りにある、もっとも大切なものです。このため、水が氷に変わる温度をもっとも大事な基準の温度として、0℃としたのです。

 また、ぴったり0℃でも氷になれるのかは、そのとおりです。しかし、水をゆっくり冷やしていくと、実際には0℃以下になっても氷にならずに、水のままでいることもあります。これは、最初に水が凍り始めるときの、氷のできかたによリます。少し難しい言葉ですが、0℃以下でも凍っていない水を、“過冷却水”と呼びます。雪の科学館では、実際に過冷却水を作って、この水が凍る様子を実演しています。科学館に来る機会がありましたら、ぜひ実演に参加してください。科学館の公式YouTubeチャンネルにもその様子を紹介しています。

 

  ▶ YouTube 動画 

〈過冷却水のせつめいは 6分30秒からはじまります〉

 

(*漢字のふりがなつき回答はこちら)

 

(回答掲載日:2021年8月5日)

#水の不思議#氷の不思議#温度
Q22

4℃のナゾ

水は4℃で体積が最小になると過去に習いましたが、なぜ4℃なのでしょうか。不思議なので知りたいです。よろしくお願いします。(かしわさん / 岐阜県・31歳)

 水は、他の物質にはない不思議な性質をたくさん持っています。ご質問にある体積が+4℃(厳密には、+3.98℃)で最小になる(言い換えると、密度が最大になる)というのもそのひとつです。この性質を持つ物質はとてもまれで、ほとんどすべての物質の液体は融点(結晶が融ける温度)の時に体積が最小で、温度が上がれば体積はだんだん大きくなっていきます。

 この不思議な性質は、水が凍って氷の結晶になると水に浮かぶということとも関連しています。氷の結晶というのは、水分子が三次元に規則正しく並んだ構造をもっています。このとき隣り合った水分子どうしは、水素原子を介して結合しています。この結合を水素結合と呼びます。すなわち、氷の結晶とは水素結合の三次元的な組み合わせで出来ているとも言えるのですが、これがけっこう隙間の多い構造を作るのです。このため、水中の水分子がバラバラに配置した状態にあるときよりも、氷の結晶中の水分子間隔のほうが大きくなっています。すなわち、液体の水の状態よりも、体積は氷のほうが大きくなる(密度が小さくなる)ことになります。

 では、本題に戻りましょう。氷が溶けると液体の水に戻りますが、まだ0℃に近い温度では水の中の分子がすべてバラバラになっているわけではありません。すなわち、隣接する水分子どうしで水素結合を作っているものが、ごく一部ですが残っています。このような水分子のかたまりは、「クラスター」と呼ばれます。このクラスターは、発生してもすぐに壊れてしまうのですが、水中のあちこちで発生していますので、全体として、常に一定の割合の水分子がクラスターになっています。この効果は、水全体の体積を増加させる(密度を減少させる)ことになりますが、温度が上昇するとクラスターも発生しにくくなりこの効果は弱まります。一方、さらに温度が上昇すると、水分子はより活発に動き回るようになりますので、分子間隔はだんだん拡大し、水全体の体積を増加させる(密度を減少させる)効果が働きます。この2つの効果が相殺するのがちょうど4℃という温度になります。このため、この温度で水の体積は最小(密度は最大)となるのです。(図を参照して下さい。)

 他の多くの物質でも、それを溶かした液体の中では、水中と同じことが起きています。しかし、物質の固体(結晶)は、それが溶けた液体よりも体積が小さい(密度が大きい)のが普通ですので、融点の時に液体の体積が最小で温度が上昇すると体積は一方的に増えていきます。したがって、氷のこの性質はとても奇妙なのですが、シリコンなどごく一部の物質では同じ性質があることが知られています。これらの物質の結晶は、実は氷と同じような隙間の多い構造をとることも明らかになっています。

 

*「クラスター」という言葉は、コロナの蔓延が始まってから誰もが知るものになりましたが、もともとは「なにかの集団」という意味で、さまざまな分野で使われています。

 

(回答掲載日:2021年7月12日)

#水の不思議#温度
Q18

雲が凍らない理由

上空は寒いのに、雲が凍らないのはなぜですか?また、雲が空に浮かんでいられるのはなぜですか?教えてください。(Kitutukiさん / 岐阜県・13歳)

 雲は、小さな水滴(雲粒)がたくさん集まってできています。雲粒の大きさは、直径で3〜10μm(すなわち、0.003〜0.01mm)程度でとても小さいものです。上空に行くと気温は下がり、やがて0℃より低くなります。雲粒は小さいとは言っても水でできていますから、このような温度になると凍ってしまってもおかしくないですね。

 実際には、気温が0℃以下であっても、雲粒は凍らずに水滴のままでいることができます。これは、水のもつ「過冷却」という性質によります。中谷宇吉郎雪の科学館では、ペットボトルに入れた水を冷凍庫で−5℃程度まで冷やしても、凍らずに液体のままでいることを示す実験を毎日行っています。この実験で作っている水が「過冷却水」と呼ばれるものです。この過冷却水は、ペットボトルを叩いたり、振ったりすると、簡単に過冷却の状態が破れて凍ってしまいます。それは、ペットボトルに与えた振動が氷を作るきっかけになるためです。また、振動がなくても、水の中に含まれているゴミやペットボトルの容器についた傷などがきっかけになって、やがて凍ってしまいます。

 しかし、雲粒の場合は、非常に小さいのでその内部にはゴミなどが入っていることはあまりありません。また、空気中に浮かんでいるので、容器の傷などの影響もありません。このため、ペットボトルで作る過冷却水より、もっと低い温度まで簡単に過冷却してしまいます。条件が良いときには、雲粒は−40℃程度まで凍らずに、液体の状態でいることができます。雲は、驚くほど低温になっても、凍らずにいることができるのですね。

 最後に、雲が空に浮かんでいられる理由ですが、雲を作る雲粒が非常に小さいことに関係しています。雲粒は、小さいとは言っても、もちろん地上に向かってゆっくり落下していきます。しかし、雲ができるときには、大気が上に向かって上昇していることが多いので、小さな雲粒も大気の流れに沿って上昇していきます。このバランスが取れているため、雲は空に浮かんでいることができるのです。

(回答掲載日:2021年3月30日)

その他の現象 #雲#過冷却水#水の不思議
Q15

氷のすき間について

はじめまして。 小学校で4年生を教えています。 氷になると液体の水より体積が大きくなると学習します。その理由は氷ができる時にすき間ができるとのことですが、ふと疑問に思いました。 そのすき間は水にとけている空気なのか、それとも真空なのでしょうか。 氷の結晶構造のすき間の中に酸素や窒素の分子が入り込める余地はあるのでしょうか。(くすもとさん/大阪府・43歳)

 コップに入れた水を冷凍庫に入れて凍らせると、体積が約9%増加します。水も氷も多数の水分子が集合してできていますが、このことは水中より氷の中の方が水分子の詰り方がほんの少し疎らであることを意味しています。液体の水では、水分子は不規則に混じり合っています。これに対し、結晶である氷では、水分子は三次元的に規則正しく配列しています。下に示した図は、氷の結晶中での水分子の配列を示しています(産業技術総合研究所 灘浩樹先生提供)。水分子はH2Oですので、灰色の大きな球が酸素原子(O)、赤の小さな球が水素原子(H)を示しています。1個の酸素原子は、隣り合った4個の酸素分子と水素結合で結ばれていて、この結合の上に水素原子が1個ずつ配置されています。液体の水が凍って、このような結晶構造を作るときに、水分子が少しずつすき間を開けながら配列を作るので体積が増えるのです。

 とはいっても、このすき間はせいぜい水分子の大きさですから、ここに窒素や酸素などの他の分子が入り込むことはできません。最初に述べたように、コップに入れた水を冷凍庫で凍らせると、透明な氷ではなく真っ白な氷になってしまうことが多いですね。水中に溶けていた窒素や酸素の分子は、水が凍っても氷の内部には入れないので、気体として現れるしかありません。このとき生じた気体の泡(気泡)は、氷が成長するときに氷の中に取り込まれてしまいます。すると、この気泡に当たった光が散乱を起こし、氷は透明ではなく白く見えるのです。

 

 ところで、気泡を含んだ氷にどんどん圧力をかけていくとどうなるでしょう。気泡は、圧力とともにだんだん小さくなり、やがて氷の中から消えてしまいます。このとき、気泡の中の窒素や酸素はどうなってしまったのでしょうか。実は、氷の結晶の格子の中に取り込まれてしまっているのです。先程の話と矛盾しているようですが、圧力が高くなると水分子の配列そのものが変化して、無理やりすき間を作り、窒素や酸素の分子を取り込むことができるようになるのです。この特別な氷はエアハイドレート結晶と呼ばれ、実際に南極大陸を覆う氷床の深部で発見されます。氷床は、何十万年もの間に降り積もった雪が積み重なってできた、厚さが最大4キロにも及ぶ氷の塊です。このため、その深部では氷にものすごい圧力がかかっているので、気泡がエアハイドレート結晶に変化したのです。氷床は、深くなるほど古い空気を貯め込んでいます。まさに、”空気の化石”ですね。

(回答掲載日:2021年3月6日)

#氷の不思議
Q11

植物は凍らない?

冬のとても寒い日でも椿などの花が咲いていたり草が生えていたりしますが、0度以下でも植物は凍らないのでしょうか?(なっちゃんさん / 石川県)

 生き物は、植物でも動物でも体が凍ると普通は死んでしまいますね。このため、寒い冬を凍らずに生き延びて、次の春にまた活動ができるように、生き物たちは特別なしくみを持っているのです。植物と動物では、そのしくみは異なりますので、まず植物について見てみましょう。

 植物が凍らないしくみのひとつは、冬になるとその体の中にたくさんの糖分やアルコール分などの成分を生成することです。水道水などのきれいな真水を冷やすと、通常は0度になると凍ってしまいます。しかし、水に糖分やアルコール分などが含まれていると、0度では凍らずに氷点下の温度になっても液体のままでいることができます。少し難しい言葉ですが、このことは「氷点降下(ひょうてんこうか)」と呼ばれていて、水に含まれる物質の濃度が高くなるほど、水が氷に変わる温度が低くなるという現象です。冷凍庫などに甘いジュースなどのペットボトルを入れておくと、真水のボトルよりも凍りにくくなりますが、これはジュースに大量に含まれる砂糖による氷点降下のためです。野外にいる植物も、冬が近づいてだんだん寒くなると、体内に糖分やアルコール分などを溜め込んで、この氷点降下のために体内の水が凍るのを防いでいるのです。実際、冬の寒さが厳しくなると野菜の甘さが増して、おいしくなると言われますね。これは、寒さに対抗するために、その体内に糖分を溜め込むためなのです。

 いっぽう、動物にも寒い冬を凍らずに越して、翌年また活動を再開するものがたくさんいます。人間と同じような哺乳類などは、自分で体温を調整する事ができます。しかし、魚や昆虫などの変温動物は自分では体温調節ができません。このような動物の体温は、周囲の環境の気温とほぼ同じになっていますので、冬になると氷点下まで下がります。それでも、多くの動物は凍ることなく、寒い冬を生き延びることができます。このような動物は、植物よりももっと複雑なしくみで体が凍ることを防いでいることが知られています。そのひとつは、動物の体内には不凍タンパク質と呼ばれる特別なタンパク質が含まれているからなのです。このタンパク質は、動物の体内での氷の生成を制御して、体が凍ることを防ぐという機能を持っているのです。おなじ動物でも、夏の間はこのタンパク質が含まれていないので、急に氷点下の温度にすると、体は凍ってしまうことが知られています。冬が近づくと、体内でこのタンパク質を生成して、寒さに備えた体に体質改善しているのですね。

 このように、氷点下の環境に住む生き物たちは、自分の体をいかにして凍らせないかという複雑なしくみを持っているのです。逆に、そのようなしくみを獲得した生き物だけが、冬の寒さの中でも生き残ることができたとも言えるでしょう。ここにも、生物の命のしくみが隠されているのですね。

(回答掲載日:2020年12月14日)

その他の現象 #植物#氷点降下#自然現象
Q5

電子レンジに氷をかけたらどうなる?

コップに氷を入れて電子レンジで溶かそうとしましたが少ししか溶けませんでした。なぜですか?(ひなさん / 石川県・6歳)

 ひなさん、とてもおもしろいことに()がつきましたね。ちょっとむずかしいお(はなし)になりますが、がまんしてください。

 まず、(みず)(こおり)は、目には見えないほどのものすごく小さな粒(水分子と言います)がたくさんあつまってできています。水のなかでは、この粒つぶがグチャグチャに詰まっているのですが、氷のなかでは粒つぶが順番にきれいにならんでいます。

 この粒つぶは、水や氷のなかで動き回ったり、ブルブルふるえたりしています。電子レンジは、水のなかの粒つぶのブルブルをより大きくするはたらきをもっています。このため、電子レンジにコップの水を入れるときゅうに熱くなるのです。しかし、氷の中の粒つぶは、きれいに並んでいますので、もともとブルブルしにくいはずですね。ですので、電子レンジに氷を入れても粒つぶのブルブルが大きくなりにくいので、氷は電子レンジに入れても溶けにくいのです。

 ちょっとむずかしいので、ジグソーパズルを思い出してください。ジグソーパズルは、たくさんのピースでできていますが、このピースひとつひとつがこの水や氷のなかの粒つぶだとしましょう。パズルであそぶ前には、たくさんのピースはグチャグチャになっていますね。このピースをぜんぶ箱に入れて箱をゆらすと、ピースはかんたんに動き回ったりブルブルしたりして、まざりあいます。では、パズルができ上がるとどうなるでしょう。ぜんぶのピースは順番にきれいにならんでいて、ピースどうしがしっかりとくっついています。このパズルを、同じようにゆらしてもピースは動きませんね。このあそぶ前のジグソーパズルが水、できあがったパズルが氷だとおもうと、箱をゆらす力が電子レンジの力になります。

 このように、おなじ力でゆらした場合に、水のなかの粒つぶはブルブルしやすく、氷のなかの粒つぶはブルブルしにくいので、氷はなかなか溶けないのです。

 やっぱり、まだむずかしいですね。まわりのおとなといっしょに、もういちどこのこたえを読んでみてください。

(回答掲載日:2020年8月18日)

 

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生活・文化 #実験#氷の不思議